西武の内海哲也の引退試合で元巨人監督の高橋由伸氏が投げかけた「テツ、また一緒にやれるかな」の言葉が意味するものとは?
国内FAを宣言した西武の炭谷銀仁朗を巨人が獲得した2018年のオフ。人的補償リストのなかに内海の名前を見つけた瞬間に獲得を即決したと4年前を振り返った渡辺GMは、今シーズンからコーチを兼任させた理由も明かしている。
「これからの野球人生を考えたら、指導者としての適性もあると思っていた。まずは選手をやりながらでも、指導者としての勉強をやってほしいと考えました」
まだシーズンが終わっていないだけに、内海の今後を問われた渡辺GMは「将来のことはノーコメントで」と言及を避けた。それでも、引退会見から現役最後の登板、そしてセレモニーと続いたこの日を見ただけでも、今後の内海へ寄せる西武の期待と、その人望の厚さが伝わってくる。
引退会見の終盤には自主トレをともに行ってきた一番弟子、2018年のドラフト2位右腕の渡辺勇太朗がサプライズ登場。感謝の思いを綴った手紙を涙ながらに読み上げ、内海も目頭を押さえる場面があった。渡辺はこんな言葉を贈っている。
「プロ野球人生をスタートさせた年に内海さんに出会えて、教えていただいたこの4年間 が一番の財産です。褒められたこと、叱られたことなど数々の思い出が思い浮かびます」
会見を終えると、さらなるサプライズが待っていた。楽天戦前のアップを控えていた西武の投手陣がひな壇に集結。内海へ花束を手渡しながら同じ時間を共有した。
打者1人限定でマウンドに立った引退登板。楽天のトップ山﨑剛に対して初球の前に一度、そして5球目の前に二度、サインに首を振った内海は最終的には5球すべてでストレートを投じ、最後は外角への139kmでセカンドゴロに仕留めて左腕エンスへ後を託した。
「自分に本格派左腕だと言い聞かせて、ストレートを生かす練習をしてきた」
引退会見で自身のスタイルをこう語っていた内海だが、最後は勝手が違った。
「初球は緊張で思ったところに投げられず、四球だけは絶対嫌だと思っていたら、さらに緊張感が増してしまって。変化球がストライクゾーンに行く気がしなかったので、打たれてもいいから、ストレートで勝負したかったので首を振りました」
この素直さもまた、周囲が内海に惹きつけられる理由のひとつだ。
迎えた引退セレモニー。約8分間のスピーチを終えると、一塁側の楽天ベンチへおもむろに駆け寄った。巨人から昨年7月に楽天へ移籍していた炭谷が元西武の渡辺直人打撃コーチとともに残り、内海のセレモニーを見守っていたからだ。
「4年前にライオンズに移籍するときに、すみませんと謝ってくれましたが、この4年間で僕は本当に素晴らしい経験をすることができました。ありがとうございました。でも、東京ドームで打たれたホームランは忘れません」
スピーチのなかでエピソードとジョークをまじえながら、炭谷にも言及した内海は場内を一周した後、ベンチ前で整列していた首脳陣、選手たちと熱い握手をかわす。最後に全員でマウンドへ向かい、胴上げで3度、宙を舞った。背中に『UTSUMI』と背番号の『27』が記された、特製Tシャツ姿のチームメイトの多くが涙をぬぐっていた。