西武の内海哲也の引退試合で元巨人監督の高橋由伸氏が投げかけた「テツ、また一緒にやれるかな」の言葉が意味するものとは？

　巨人時代から球界屈指の人格者として知られた内海は、2度の最多勝獲得をはじめとする揺るぎない実績を残しても、若手でも誰でも分け隔てなく気さくに接してきた。背中を介して語れる日々の練習での立ち居振る舞いも含めて、西武へ移籍し、大ベテランの域に入ってもまったく変わらない姿を高橋氏も知っていたのだろう。

　だからこそ内海の今後へ「活躍する場所がたくさんある」と挨拶で言及し、さらに「テツ、また一緒にやれるかな」と呼びかけて西武ファンのどよめきを誘った。

　巨人の監督を退任して4年。監督再登板へ向けての充電も終わりに近づいているからか。監督人事は自分の判断で決められるものではなく、読売グループの最高幹部が決定する案件ではあるが、もし再び巨人のユニホームを着る機会があれば、ぜひ自らのコーチングスタッフの1人に内海を招聘したい。その秘めた思いが反映されたラブコールだったとひもとけば、挨拶の筋も通ってくる。ただ原監督が、昨年3年契約を結んでおり、球団は阿部慎之助を2軍監督から1軍の作戦兼ディフェンスチーフコーチと経験させ、将来の監督候補として英才教育をしている。高橋氏の監督再登板の時期がいつになるのかはわからない。

　もちろん西武もまた内海を今後もコーチとしてチームに残したいだろうから、内海がどこの球団のユニホームを着て指導者の道に進むかはタイミングによるだろう。今言えることは、内海は引退した直後に引っ張りだこになるほどの人材だということだ。

　もっとも、会見から登板、セレモニーと引退にまつわるすべてを終えた内海は、会見で「明日から何をしたいのでしょうか」と問われてこう答えている。

「球団からは『最後までやってくれ』と言われているので。ライオンズのことだけを考えて、最後までやりきりたいと思っている」

　セレモニーの直前に延長戦の末に決着がついた楽天戦で、西武は4－6で敗れた。連敗は今季ワーストタイの「7」に伸び、3位・楽天とのゲーム差も「2」に開いたばかりか、5位・千葉ロッテとのゲーム差も「1」と肉迫している。

　残されているのは6試合。一時は絡んでいた優勝争いどころか、クライマックスシリーズ進出にも黄信号が灯っても、内海はスピーチの最後をこう締めくくった。

「ライオンズはいま、チーム一丸となって全力で戦っています。僕も最後の最後まで準備します。ファンのみなさま、一緒に戦っていきましょう」

　もうマウンドには立たない。それでも内海はこれまで通り、誰よりも早くスタジアムに来て、誰よりも多く練習を積むこだわりを介して、西武を内側から鼓舞していく。

（文責・藤江直人／スポーツライター）