なぜラグビー日本代表はW杯3度Vオールブラックスを相手に過去最少失点差に迫る大善戦を演じることができたのか?
勝負の土俵に立つのに必要な日本代表の「マインドセット」は万全だった。フランカーの姫野和樹が、こう断言した。
「恐れることはなかった。むしろ、カマしたろうと思っていました」
オールブラックスがゲーム前に披露する民族舞踊「ハカ」の際は、委縮するどころか余裕を持って見つめた。
「前列には生粋のマオリの、ハカが上手い人たち(先住民族をルーツに持つ選手)が並ぶ。僕らは、後ろの選手を見ようという対策をしていました」
過剰なリスペクトは禁物。日本代表がその思いとともにずっと披露したのが、芝の上での「スマートなハードワーク」だ。
まずはトニー・ブラウンアシスタントコーチが指示する攻撃陣形に沿って、素早くポジショニング。特にグラウンド中盤あたりでは、何度も数的優位を作れた。
10―21と11点差を追う前半40分、敵陣22メートル線まで持ち込んだ球をオールブラックスに蹴り返される。日本代表は大きく駆け戻りながら、敵陣10メートルエリア左へ速やかに攻撃ラインを整えた。
その列に入っていた1人は、インサイドセンターの中村亮土だ。
フルバックの山中亮平から球をもらうと、目の前の相手をひきつけながら大外のアウトサイドセンター、ディラン・ライリーへパス。自身の目の前にいた相手ウイングのセブ・リースは防御が不得手だと、中村はわかっていた。ノーマークだったライリーが、左タッチライン際を加速。最後はサポートについたスクラム流大がフィニッシュするなどし、17―21の僅差でハーフタイムを迎えた。
ジョン・ミッチェルアシスタントコーチが整備した防御システムも、多くのシーンで機能した。
ライン全体で鋭く前に出て、2人のタックラーが走者へ同時に刺さる形だ。攻撃で魅したライリーは、タックラーとしても心強かった。
さらにはこの1週間のトレーニングで徹底してきら相手のモール(ボール保持者を軸にした塊)を進ませないための防御も成功させていた。
ラインアウト、モールに関する動きを指導するジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、こう振り返った。
「しっかりと自分たちのやることをやれれば、勝つチャンスを作れる。その自信のもとにこの日を迎えました」
目を見張る内容を勝利に繋げられなかったことも、ある意味では収穫かもしれない。発生した課題へ、より真摯に向き合いやすくなるからだ。
守備にミスもあった。オールブラックスに与えた5つのトライのうち少なくとも2つは、ミッチェル仕込みの防御ラインが不揃いなところを突かれて決まった。
好守を連発したフランカーのリーチ・マイケルは、こう総括する。
「ちょっと気持ちが前に出すぎてコネクション(防御網の繋がり)が切れたところもある。いい経験になりました。このレベルの試合では一瞬でも気が抜けると、一気にやられる。ずっと集中しないと」
システムを機能させればどこにも負けないとの自負がある。その精度、理解度を高めるのが、この惜敗で突きつけられた課題だ。