なぜドーハの歓喜が生まれたか…背景にあった浅野の「無視した」覚悟と堂安「ふざけるな!」の怒り
ペースを握り返し始めると、森保監督はさらに動いた。
後半12分に長友に代えてMF三笘薫(25、ブライトン)を、前田に代えて浅野を投入。三笘はそのまま左ウイングバックに入った。さらに26分にMF田中碧(24、フォルトゥナ・デュッセルドルフ)に代えて堂安を、30分には酒井に代えてMF南野拓実(27、モナコ)を投入した。
最終的には左に三笘、右に伊東とウイングバックにドリブラーを配置。鎌田がボランチへ一列下がり、シャドーに南野と堂安が入る超攻撃的な布陣で30分の同点ゴールが生まれた。
左サイドに開いた三笘が、敵陣で得意とするカットインを仕掛ける。そして、ペナルティーエリア内の左側へ侵入した矢先にスルーパスを供給。抜け出した南野がワンタッチで中央に折り返し、ノイアーが弾いたところを抜群のタイミングで飛び込んできた堂安が押し込んだ。
「ゴールを決めた直後は、頭のなかが真っ白になったというよりは、意外と落ち着いていましたね。何も考えずに『ごっつぁんです。ありがとう』という感じでした」
2019年1月のアジアカップ以来、約3年10カ月ぶりに決めた代表通算4点目を冷静に振り返るとともに、語気をやや強めながら胸中に抱いてきた思いを明かしている。
「流れがちょっとずつ日本に来ているなかで、僕がヒーローになると思ってピッチに立ちましたし、そのためのイメージトレーニングをこの4、5日間ずっとホテルでしていました。ヨーロッパ勢がアジアをなめているところがあったし、僕が所属するフライブルクでも『ドイツ、余裕だね』などと言われていたので、ふざけるなと思っていました」
後半からははるばる訪れた日本人サポーターに加えて、ドイツ人を除いた外国人観戦者も日本を後押しするようになった。今大会の目玉でもある、冷房設備が整ったハリーファ国際スタジアムをヒートアップさせた展開を鎌田は独特の表現で受け止めている。
「自分たちが勇気を持ってプレーすることで、スタジアムの雰囲気も変わっていったのかなと」
森保監督が初めて見せたといっていい、相手チームに先駆けた、かつ超攻撃的なシステム変更と選手起用。そのなかで隣同士の形でベンチに座りながら、1点ビハインドの状況が続く展開に「このままならいける」と異口同音に話していた南野、堂安、浅野がゴールに絡んだ。
日本のW杯通算6勝目を初めての、森保ジャパンとしても約3年10ヵ月ぶり3度目の逆転劇でもぎ取った。W杯史上に残るジャイアントキリングを成し遂げた日本は、チームの雰囲気を含めてまさに最高の形で、初戦でスペインに0-7で大敗したコスタリカとの第2戦を27日に迎える。
(文責・藤江直人/スポーツライター)