引退表明していた横浜FC中村俊輔が万感のラストマッチ…試合後に明かした“第二のサッカー人生像”とは?
万感の笑顔とともに稀代のレフティーがスパイクを脱いだ。明治安田生命J2リーグ最終節の11試合が23日に行われ、現役引退を表明している横浜FCの元日本代表MF中村俊輔(44)がロアッソ熊本戦で先発出場。敵地・えがお健康スタジアムを埋めた、今シーズン最多の2万1508人の観客が見守るなかで後半15分までプレーした。試合後には理想とする指導者像に言及するなど、記録と記憶に残る“永遠のサッカー小僧”は息つく間もなく第2のサッカー人生を歩み始める。
前日にチケット完売…熊本に2万1508人が全国から集合
勢いよくベンチを飛び出してからわずか数歩で、俊輔はきびすを返してしまった。
途中出場のFWマルセロ・ヒアン(20)が熊本ゴールを陥れ、4-3と逆転に成功した後半43分。ヒーローのもとへ駆けつけていった仲間たちの輪に加わるのをあきらめた俊輔は、右足を引きずりながらベンチへ戻ってきた。右足はストッキングも、スパイクも履いていなかった。
「バケツに右足を突っ込んでアイシングしていたんだけど痛くて。あそこまで行けなかったよ」
右足が裸足のまま、喜びのあまり無我夢中で駆け出した理由を明かすと、さらにこんな言葉もつけ加えた。それこそが今シーズン限りでの引退を決めた一番の理由だった。
「軟骨がないから、骨が当たって痛い。コンドロイチンも効かないからね。4年くらい前から注射をして痛みをごまかす感じ。痛み止めを飲んでやる、というのが毎日だったから」
昨年のいまごろに夫人に引退を打ち明けた。返ってきた「何で勝手に決めるの」という叱責の言葉と、周囲からかけられた「もう1年やってみたら」という声に翻意した。
しかし、黄金の左足を支えてきた軸足のなかで、最も負荷がかかる足首は限界に近づいていた。今年6月にはメスを入れた。少しだけ蘇ってきた感覚に、俊輔は「手術前はもっと動けなかった。判断は難しかったけど、受けてよかった」と医師をはじめとする周囲に感謝した。
リハビリの過程で引退を決め、キックオフ前にJ1昇格が決まったツエーゲン金沢との前節で、横浜マリノスのルーキーとしてJ1デビューを果たしたニッパツ三ツ沢球技場のピッチに立った。148日ぶりに戦列に戻ってきた俊輔のために。熊本との最終節へ向けて周囲は動き出した。
横浜FCの四方田修平監督(49)は昨年4月7日のサンフレッチェ広島戦を最後に遠ざかっていた先発起用を決め、キャプテンのFW長谷川竜也(28)はともに先発する俊輔にピンク色のキャプテンマークを託した。熊本戦までの数日間を俊輔は“らしい”言葉で振り返った。
「本来ならば試合に出られなかったし、キャプテンマークを巻くこともなかった。最後ということで監督や(長谷川)達也がそういう提案をしてくれて仕上げてきたけど、やらせてもらってるだけでありがたかった。とにかくいいプレーがしたかったから、昨日、一昨日ぐらいからルーティンじゃないけど、スパイク選びとかをね。足首がこうだから湿布を貼りながらとか、何が一番いいかとか。そういうのができるのが実は幸せなんだな、と」
迎え入れる敵地・えがお健康スタジアムもパニック状態に陥った。
スタジアムへ駆けつけた観客数は2万1508人。今シーズン最多だった8日のザスパクサツ群馬戦の5472人を4倍近くも更新した。試合前日の時点で全席が完売。前節後にメディアで報じられ、さらに正式発表された俊輔の現役引退に背中を押され、出場するのならば最後の勇姿を目に焼きつけたいと望んだファン・サポーターが全国から熊本の地に集まってきた。