なぜ打率0割のヤクルト山田哲人は3番から1番の打順変更で復活3ランを放ったのか…勝敗を分けた中村と伏見の配球術の差
池田氏は、この試合のポイントは、4回裏のオリックスの攻撃から5回表の山田の3ランへとつながるイニングを跨ぐ攻防にあったと見ている。
「結果的に7-1のワンサイドゲームになったが、短期決戦の勝敗を左右する先取点をオリックスが4回に取っていればわからなかった」
4回、先頭の吉田正がレフト前ヒットで出塁。続く頓宮の三塁ゴロを一度は併殺とジャッジされたが、中嶋監督のリクエストで覆り、一塁走者が残った。ここで宗が左中間を破る二塁打を放ち、一死二、三塁の先制機を作ったが、こういう場面を想定して下位打線に置いていた中川、杉本が連続三振に倒れて得点ができなかった。
池田氏は、高橋―中村のバッテリーの配球に注目した。
「中川には、初球にスライダーを投じてボールになった後にチェンジアップを3球続けた。そして次もスライダー。全球変化球でフルカウントにして勝負球が、見送ればボールとなる外角高めのストレート。それでハーフスイングを奪い、三振に終わらせたが、次こそストレート、次こそストレートの中川の心理を利用して、釣り球に手を出させる配球だったと思う」
続く杉本にも、カウント1-1からスライダーを2球続けてから最後は、インハイのストレート。このボールも見送ればボールとなる釣り球だった。
「相手が何を狙っているかを中村が察知していた」と池田氏。
ヤクルトにID野球を根付かせた故・野村克也氏は「打者が狙っているところの周辺に弱点がある」と言っていた。プロ14年目。円熟味が増してきた中村の絶妙のリードに高橋が、その球威とコントロールで応えたのである。
そして5回に山田の復活3ランをお膳立てしたのは、中村、サンタナの連打だった。ここまで素晴らしい出来の宮城の前にヤクルト打線は2安打5三振無失点に抑えられていた、だが、先頭の中村はカウント2-2からストレートを狙い打ち、続くサンタナは、逆にストレートに見向きもせずに変化球を待ち、チェンジアップをセンター前へ弾き返した。
二死を取ったが、不振でストレートしか狙っていなかった山田に2球続けてストレートを投げて、それを仕留められたのである。
「宮城はストレートよりも変化球が多かった。その傾向をしっかりと分析してヤクルト打線は、5回に狙い球を絞ってきた。結果的に宮城―伏見のバッテリーは、その裏をかけなかった。ここが中村と伏見のキャッチャーとしての察知力の差。加えて、1勝1分けできたチームと、宮城で絶対に一つ勝たねばと追い詰められたチームの勢いの差が、リードの余裕の有無になって表れたと見ている」というのが池田氏の見解だ。
また池田氏は、3点差の7回から3番手として竹安を送ったオリックスの継投策にも疑問を投げかけた。竹安は、結果的に満塁にして、村上に押し出しの四球を与えている。
「9回に本田を投入しているが、竹安よりも先に本田だったのでは。この1点が大きく響いたと思う」
ヤクルトは9回に村上の右中間を破るダメ押しの2点タイムリーが飛び出し、絶好調のオスナもセンター前タイムリーで続き勝負を決めた。