横浜F・マリノスの自力V復活で優勝行方はどうなる?11.5最終節でマリノス●川崎〇でのみ逆転
明治安田生命J1リーグ第33節の9試合が29日に行われ、首位の横浜F・マリノス、2位の川崎フロンターレがともに勝利。優勝の行方は11月5日の最終節へ持ち越された。ホームの日産スタジアムに浦和レッズを迎えた2連敗中のマリノスは、前半からゴールを積み重ねて4-1で快勝。川崎が2-1でヴィッセル神戸を下したために勝ち点2ポイント差こそ変わらないものの、敵地に乗り込む神戸との最終節で自力優勝できる状況を手繰り寄せた。
「貫き通して乗り越えること」
ペナルティーエリアの右角あたりで味方からの縦パスを呼び込んだFW水沼宏太(32)は、たったひとつしか選択肢を持ち合わせていなかった。前半17分に自陣から発動させたマリノスのカウンター。中央にはMF西村拓真(26)が、左サイドにはFWエウベル(30)が走り込んできていた。
「それでも、自分で(シュートを)打ちにいこうと決めていました」
こう振り返った水沼が、トラップから左へ切り返した次の瞬間だった。対峙する浦和のDFアレクサンダー・ショルツ(30)をおかまいなしに、利き足とは逆の左足を迷わずに振り抜いた。
果たして、ブロックしようとショルツがとっさに出した右足に当たり、コースを変えた一撃は左ポスト際へ詰めてきたエウベルへの絶妙のラストパスに変わった。両チームともに無得点の均衡を破るエウベルの先制点が、マリノスをさまざまな呪縛から解き放った。
快勝の呼び水となった強引なシュートを、水沼が会心の笑顔で振り返った。
「あのようなシーンで足を振ることで、どのような状況が生まれるかわからない。実際にエウベルがいるところへこぼれていった。相手が怖がるプレーをしていかなければいけないし、僕たちはこうして大量点を取れる力を持ったチームなので、早く1点が取れてよかった」
マリノスのゴールは4-0で圧勝した10月1日の名古屋グランパス戦の試合終了間際に、MF藤田譲瑠チマ(20)が決めて以来だった。この時点で2位・川崎との勝ち点差は8ポイント。日産スタジアムで待つ3連戦で、マリノスが優勝を決めるシナリオができあがったかに思われた。
しかし、8日のガンバ大阪戦で0-2、12日のジュビロ磐田戦では0-1と今シーズン初の連敗を喫した。残留争いの渦中にあった下位チームに守備を固められ、攻めあぐねた末にセットプレーやカウンターで失点する。強者が陥りがちな落とし穴に続けてはまった。
しかも、その間に川崎は連勝をマーク。勝ち点差は瞬く間に2ポイントへと縮まった。1試合で順位が入れ替わる状況が、漂い始めたプレッシャーをさらに増幅させる。しかし、磐田戦から3日間のオフをはさんで再始動した日々が、マリノスに再び前を向かせた。
キャプテンのMF喜田拓也(28)が、非公開練習の中身を明かしてくれた。
「例えばミーティングもいままでずっとやってきたことに対する内容だったし、じゃあ練習内容をがらりと変えたかといえばそうでもない。やり方を変えて挑む、という選択もなくはなかったと思うけど、この状況を変えるためにマリノスが選んだのは続けて、貫き通して乗り越えること。そうしたメッセージだと、僕たちは受け取りました」
シーズンの大詰めで喫した連敗は、確かに大きなショックを残した。だからといって、開幕から積み上げてきたものがすべて否定されるわけでもない。自分たちはまだ首位にいる。ケヴィン・マスカット監督(49)のぶれない姿勢が、チームに自信を蘇らせた。
磐田戦から中16日で浦和戦を迎えた変則日程も追い風になった。
11月にカタールワールドカップが待つ今シーズンは、天皇杯決勝が10月16日に、YBCルヴァンカップ決勝が同22日に前倒しされている。マリノスは前者でJ2の栃木SCに3回戦で、後者では優勝したサンフレッチェ広島に準々決勝で敗れていた。
両方のファイナルをテレビ観戦した水沼は、自分たちに足りないものを痛感した。
「もちろん僕たちにも『勝ちたい』という気持ちはありましたけど、それがまだまだ足りなかったとあらためて感じるところもあった。口で言うのは簡単ですけど、やはりピッチの上で表現しなければいけない。今日はみんながそれを前面に押し出せたと思う」
大番狂わせを連発したJ2のヴァンフォーレ甲府が天皇杯を、後半アディショナルタイムの連続ゴールで大逆転を演じた広島がルヴァンカップを制した姿に触発された。先制点を導いた強引なシュートには、何がなんでも勝ちたい、という執念が凝縮されていた。