W杯代表落選の大迫勇也の“今”とプライドを神戸同僚“元W杯戦士”酒井高徳らが語る
7大会連続7度目のW杯出場を決めた3月シリーズだけではない。ブラジル代表と対戦した6月シリーズも、メンバー発表前で最後の活動となった9月シリーズも選外となった大迫は、代表復帰への思いを問われたときにはこんな言葉を残している。
「率直に言って、いまのままでは代表に選ばれないと感じている。僕自身も結果を出せていないし、まずは神戸のこの状況を少しでも好転させたい」
所属クラブで結果を残している選手が名を連ねるのが、その国の代表チームとなる。大迫のなかで譲れない哲学が「いまのままでは――」という発言につながった。
7月に入って復調気配を見せ、後半途中からの出場でゴールを連発した。しかし、8月に日本でセントラル開催されたACL東地区ノックアウトステージで再び負傷。戦線離脱を余儀なくされ、森保ジャパン内で検討されていた9月シリーズでの代表復帰も幻と化した。
患部を伏せたまま、大迫は怪我に関して「ずっと痛めているので。なかなか治らないですけど」と苦笑を繰り返してきた。しかし、10月に入ると痛みの連鎖から解き放たれ、4試合連続で先発出場。前半戦は「1」にとどまっていたゴール数は、いまでは「7」にまで伸びている。
味方を生かすポストプレーとともに神戸の破竹の5連勝に貢献し、一時は最下位にあえいでいたチームを一気に残留へ導いた。大迫自身が強調していた代表の条件を満たし、直近の川崎戦には森保監督が視察に足を運んだ。しかし、吉報は届かなかった。
それでも、復活に至るプロセスを目の当たりにしてきた酒井は質問に答えた数分の間に、おそらく無意識のうちに大迫に対してリスペクトという言葉を何度も使っている。この絆こそが、酒井をして「何も言っていないし、言う必要もない」と言わしめる理由となる。
「怪我で苦しんでいた時期のサコだけでなく、直近の5、6試合で、絶対に勝ちたいという気持ちで僕たちを引っ張ってくれたサコを含めて、シーズンを通して本当にリスペクトしている。僕たちにとってはヴィッセルのエースで、チームを救ってくれた存在に変わりはない。僕はあまり人のことをリスペクトすることはなかったんだけど、今回の選考もそうだし、それ以前のサコも含めて、本当にリスペクトできる存在なんだとあらためて感じている」
カタールの地で大迫がほとばしらせる勝利への執念が日本代表に捧げられる光景は残念ながら見られない。それでも、何度もどん底の状態に突き落とされても絶対に下を向かず、復活を信じて紡がれてきた半年あまりの大迫の軌跡は、神戸の財産として次世代へ受け継がれていく。
(文責・藤江直人/スポーツライター)