なぜ絶頂期の福永祐一は騎手の引退と調教師転身を決断したのか?
加えて騎手には危険がつきものだ。転身理由には一男二女の父として、夫としての責任もあった。また父・洋一さんは天才ジョッキーとして名をはせながらレース中の落馬事故で引退。献身的に支えた母・裕美子さんの苦労を幼い頃から見てきたからこそ思うこともあったはずだ。
自身も数々の落馬を経験している。デビュー後には左腎臓を摘出する大けが。その後、この苦難を逆手に取り、騎乗フォームの改革に取り組み、その類いまれなる探究心で一流に上り詰めた。しかし、昨年暮れの香港では左鎖骨骨折。もしかするとこれもひとつの大きな契機になったかもしれない。
「母は騎手になることに猛反対し、20代のころから早く辞めてと言っていた。だから調教師に受かって喜んでくれている。もちろん、偉大な父がいたからこそ、この世界に足を踏み入れた。僕のアイデンティティーというかルーツです。最後まで無事につとめあげ、いい報告をしたい」
調教師の定年は70歳まで24年。逆算するとこれがベストのタイミングだと考えた。
人柄の良さを表すかのように、様々な業界から祝福のメッセージが届き、何度も何度も周囲への感謝の言葉を口にした福永。最初に相談した妻でフリーアナウンサーの松尾翠もインスタグラムで「祐一さん、調教師試験に合格しました」と報告し「現役生活は2月末までになります。ラストスパート、それから新しい未知なる挑戦も、また見守っていただけたら幸いです」と内助の功を発揮した。
3月からは技術調教師として将来の開業に備える。
「その間、生産、育成、海外の牧場を含め、厩舎経営に必要な経験を積んでいきたい」
福永が調教師として“3冠馬“コントレイル産駒でのダービー、ジャパンカップ制覇を果たす日をファンも願っている。
まだ来年2月末まで騎手としての活躍の舞台は終わらない。今後も有力馬はそろっており、暮れの大一番、有馬記念では菊花賞2着のボルドグフーシュとのコンビが決まっている。引退までの最後のビッグレース。福永の騎手としての有終の美に注目も集まるだろう。
異例の決断ではあるが、福永の新たな競馬人生が始まる。