なぜ千賀は5年102億円でメッツと契約合意したのか…背景にある「最先端のデータ野球」
ソフトバンクから海外FA権を行使して米大リーグ移籍を目指した千賀滉大(29)が、メッツと5年総額7500万ドル(約102億円)で契約に合意したと10日(日本時間11日)、大リーグ公式サイトなど複数の米メディアが一斉に伝えた。今後、身体検査を経て正式契約となる。千賀がメッツを選択した決断の背景には何があったのか。代理人であるジョエル・ウルフ氏の言葉などを元に検証してみた。
データー分析のスペシャリストの存在がカギ
11月上旬にラスベガスでGM(ゼネラルマネージャー)会議が行われたが、そこで代理人のウルフ氏は千賀が希望する球団の条件について「データに精通し、そういう面でも彼を成長させてくれるようなチーム」を挙げた。
「千賀はドライブラインのプログラムもこなしているから」
シアトル郊外に拠点を置くドライブライン・ベースボール(以下ドライブライン)は、データに基づく科学的なアプローチで知られ、エンゼルスの大谷翔平らも通う。
もともとは投手のためのトレーニング施設だったが、最近は打撃プログラムも評判で、先週はJD・マルチネス(レッドソックスからFA)、ムーキー・ベッツ(ドジャース)らの姿もあった。ウルフ氏によれば千賀も今年に入って契約し、先月、訪米した際に立ち寄っている。
この時点で千賀の契約先はデータ分析に優れ、そうした取り組みに理解のあるチームではないか、というざっくりとしたくくりが見えてきたが、同じ会議でメッツのビリー・エプラーGMは、エリック・ジェイガーズを育成部門のディレクターに採用したことを公表。その彼の存在こそが、今回の契約のカギになった可能性がある。
ジェイガーズは元ドライブラインのピッチングコーディネーター。19年にドライブラインで働きながらフィリーズでデータ分析を担い、20年にドライブラインを立ち上げたカイル・ボディがレッズのマイナーリーグ育成ディレクターに就任すると、彼を右腕として伴った。
そのジェイガーズは今年、レッズの投手コーチ補佐にまで昇進していたが、メッツがヘッドハンティング。同じくデータに精通したジェレミー・ヘフナー投手コーチの強力な推薦があったという。育成ディレクターとしては破格の30万ドル(約4000万円)という年俸からは、バイオメカニクスも含め、データ部門全般をジェイガーズが統括し、ドライブライン式の育成プログラム構築を託されたことが透ける。
12月5日から7日までサンディエゴで行われていたウインターミーティングで再び取材に応じたウルフ氏は、千賀がGM会議後に訪米した際、「6~7都市を訪れた」と話し、その際に球場や練習施設の見学はもちろん、GM、監督、投手コーチらと面談し、ストレングスコーチやデータアナリストらもその場に同席したことを明かした。
チームによってはそこで、ソフトバンク時代の映像に加え、日本の球団から購入したトラックマン(ミサイルを追尾する軍事用のレーダーを応用して作られた弾道測定器)やホークアイ(カメラによる映像でボールの軌道などをトラッキング)のデータを示しながら、千賀をどう評価しているのかを伝えたという。それに対して千賀は強い興味を示し、「多くの質問をしていた」とウルフ氏は振り返る。
「まさに千賀は、自分がそうしたデータによってどう評価されているのかを知りたがっていたから。彼らには自分がどう映るのか。具体的には、スライダーはどうか? カーブはどうか? さらに良くするとしたらどうすべきかを尋ねていた」