なぜ千賀は5年102億円でメッツと契約合意したのか…背景にある「最先端のデータ野球」
もちろん、言葉の壁はあるが、「千賀自身、ドライブラインのプログラムを練習に採り入れているので、データを読むことが出来る。よって、彼らの言葉をすぐに理解し、同じ言語を話しているかのようだった」とウルフ氏。
回転数、回転効率、変化量、回転方向、回転軸など、それぞれが意味するところを知っていれば、英語で言われたとしても理解は難しくない。例えばフォーシームのデータで、回転方向が1時を超え、ジャイロ成分が多くなっているとする。回転効率を上げるには12時45分ぐらいにして回転軸の向きも変えたいね、という会話になった場合、それぞれの関連がわからなければ、同じ言語でやり取りをしていても理解は困難だが、逆にその原理原則を理解していれば、解釈に通訳は必要ない。千賀にしてみれば、彼らの分析からさらなる成長のヒントを掴んだのではないか。
メッツのミーティングにそのジェイガーズが同席していたかどうかは不明だが、タイミング的には可能。また、トレバー・バウアー(ドジャース)、アレックス・ウッド(ジャイアンツ)らデータに詳しい選手らと一緒に働いてきた彼は27歳ながら経験も豊富で、彼なら、千賀が繰り出す質問にすべて答えられたのではないか。
同様にジャイアンツにもドライブライン出身のマット・ダニエルズというピッチングサイエンスの専門家がおり、ウインターミーティングでウルフ氏を取材した後、千賀の優先順位が変わっていなければ、契約先はメッツとジャイアンツに絞られたのではないか、という予想ができた。
一方、今季ワイルドカードシリーズでパドレスに敗れワールドシリーズ進出を逃したメッツ側にも、千賀を熱望する理由があった。
このオフ、ジェイコブ・デグロム、タイファン・ウォーカー、クリス・バシットらの先発陣が揃ってFAとなり、デグロムがレンジャーズへ、ウォーカーがフィリーズへ移籍。バシットも移籍が濃厚で、ローテーションの緊急補強の必要性にかられた。
ジャスティン・バーランダーを2年総額8670万ドル(約117億円)、ホセ・キンタナを2年総額2600万ドル(約35億円)で獲得、そこに千賀を加えて、そこを補完した。これでこのオフ、メッツのFA選手との契約総額は4億6170万ドル(約628億円)に達している。
ただ5年7500万ドル(約103億円)という金額は、総額で1億ドル(約136億円)という予想を下回った。6日にメッツからFAとなったタイファン・ウォーカーがフィリーズと4年総額7200万ドル(約98億円)で契約しており、それが千賀の目安になるかと思われたが、来年1月に30歳になることなども影響したか。
最終的に何がメッツとの契約の決め手となったのかは本人の言葉を待つしかないが、ウルフ氏のコメント、データやドライブラインの存在をつなぎ合わせると、メッツを選択した判断に不思議はない。ジェイガーズは、いまもドライブラインと繋がりがあり、情報交換をしている。ドライブライン側も、データの共有などシーズン中も密にコミュニケーションを取りながら、千賀をサポートできる。なにより、それぞれの方針が一致している点が大きい。決まってみれば、ブレのない決断だった。
(文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)