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11ラウンドに井上尚弥は守りに徹したバトラーをついに仕留めてKOで日本初の4団体統一を成し遂げた(写真・山口裕朗)
11ラウンドに井上尚弥は守りに徹したバトラーをついに仕留めてKOで日本初の4団体統一を成し遂げた(写真・山口裕朗)

なぜ井上尚弥は判定濃厚の展開から11ラウンドKOで歴史的4団体統一に成功したのか…「オレを倒しに来たのじゃないのか?」

 場外では注目度を示すような大混乱が起きていた。今回の試合は地上波放送はなく、NTTグループの「dTV」、「ひかりTV」でライブ配信されたが、アクセスが殺到したため、登録する際に必要な認証番号が制限時間内にSMSで届かず登録できない事態が多発。NTTは急きょ、井上の試合開始の1時間50分ほど前に登録せずとも視聴可能になるよう無料開放した。

 なぜ井上は判定濃厚の展開をチャンピオンズラウンドで打開できたのか。
 背景にあったのが、9月6日から17日まで行ったロス合宿だ。拠点になったのはマニー・パッキャオが練習を積み、名トレーナーのフレディ・ローチ氏のいるワイルドカードジム。WBA世界スーパーバンタム級1位で今後対戦する可能性があるアザト・ホバニシャン(アルメニア)やWBC世界フェザー級14位のアダム・ロペス(米国)ら6、7人の猛者とスパーリングをしたが「パウンドフォーパウンドのイノウエってどんなもんなんだ」「モンスターを食ってやる」というピリピリした緊張感が漂っていたという。
 同行した真吾トレーナーが振り返る。
「完全アウェー。相手は本気モード。こっちは3団体王者としてやられるわけではいかない。むしろ圧倒し井上は凄いと思わせなければならなかった」
 このバチバチ感こそ失っていた感覚だった。
 高校2年の時に目標としていた高校9冠がストップした試合がある。
 沖縄インターハイ。野邊優作さんという定時制4年のボクサーに判定負けを喫し、その年の全日本選手権でリベンジを果たそうと燃えていたが、相手が予選で負けて再戦のチャンスがなくなった。野邊さんは拓大に進学していた。関係者を通じて連絡を入れて拓大に乗り込んだ。道場破り…。歓迎ムードなどなく「井上をただでは返さないぞ」という緊張感のある空気の中でスパーをした。“怪物高校生井上“の噂は広がり、どこの大学やプロのジムへ行っても「高校生に舐められてたまるか」と真剣勝負を挑まれた。
「そういう緊張感でレベルアップできた」
 だが、プロになり、3階級を制覇、3団体統一王者となり、出稽古はなくなり、「やるかやられるか」の究極の緊張感は薄くなっていた。その忘れていた果たし合いのような緊迫感をロスで取り戻したのである。
 ロス合宿最後の夜。
「この緊張感を日本に帰っても続けなければいけないよね」
 真吾トレーナーが井上に言った。
 帰国すると封印していた弟・拓真とのスパーリングも解禁した。
 拓真も「これまでは対戦相手のタイプが違ったりして、やる機会はなかったけど、今回はピリピリした空気感でできたし刺激になった」という。
 トレーニングの量と質が上がったのだ。

 

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