2キロ弱の壁…歴史を塗り替えた井上尚弥のスーパーバンタム級への転級は成功するのか…「すぐに挑戦したい。2階級4団体統一へ。戦い方を変える必要がある」
プロボクシングのバンタム級4団体統一王者となった井上尚弥(29、大橋)が14日、横浜市内の所属ジムで一夜明け会見を行った。WBO同級世界王者のポール・バトラー(34、英国)を11ラウンドにKOで仕留めるまでの内幕と、スーパーバンタム級転級に向けての意欲を語った。次なる目標は2階級の4団体統一。井上はスーパーバンタム級で成功できるのか?
バトラー戦11回KO劇の内幕
3時間だけ眠った。焼肉屋で祝勝会を開き、牛タンを堪能した。
「最高の夜。4本のベルトが揃っているのを見るとやってきた重みを実感する」
井上は傷ひとつない綺麗な顔をしていた。
ドーピングの尿が出ず、遅くまで会場にいたバトラーが、その後、頭痛を訴えて病院に行こうとしていたのとは対照的だ。
一夜明け会見には、大橋秀行会長が「過去最多」と驚く、約100人のメディアが駆け付け、スポンサーなどからのお祝いの花が並んだ。
配信した「dTV」にアクセスが集中して無料開放することになったが過去最高の登録者数を記録。記念切手の発売が発表され、パウンド・フォー・パウンドを発表している米の権威ある「リング誌」からは、4団体統一を記念した特別ベルトが贈られることも決まった。
井上は「4つのベルトのうち一番大変だった。倒すまでに時間がかかった」と評したバトラー戦の内幕も明かした。
序盤を圧倒した井上は、3ラウンドにガードの上から右の強打を3発叩き込んだ。これもバトラーが亀になり守備一辺倒で来ることを想定しての戦術のひとつだった。
「効いていたと思う。あれだけ額にグローブをつけてガードしてノーダメージではない。倒すというよりダメージの蓄積が狙いのひとつだった」
それでも鉄のガードを崩さなかったバトラーに「こちらのクセ、パンチの角度を研究して得意とするパンチを防ぐ上手さを感じた」という。
真吾トレーナーが、その間の苦闘を明かす。
「アップテンポにしたり、ラフにいったり、ヒット&ウエーを徹底したり、いろんなことをやった。3分のうち30秒だけ攻めるようなことも指示した。それでもディフェンスを徹底され、煮詰まったんだけど、ただ力任せにはいかなかった」
リスクのあるノーガードもやり、両手を後ろで組むなど、「何しに日本へ来たんだ?」と挑発したが、バトラーは最後まで前へ出てこなかった。
「なぜノーガードでも打ってこなかったかわかりますか?」
真吾トレーナーが報道陣に逆に質問を投げかけた。
「打てなかったんですよ。出ればカウンターをもらうし、パンチも当たらない。何もできない。すべてが想定外だったんじゃないですか」
終盤にさしかかり、判定決着も覚悟した真吾トレーナーは、インターバルで、井上にこう語りかけたという。
「どっちが心を折るかだよ。尚がもう倒すのは無理だと思うのか。相手が耐えきれないか」
井上は11ラウンド開始前に早々と椅子から立ち上が、両手を交互に突き上げステップを踏み、KOを予告した。
「プレッシャーをかけた。まじか?(まだスタミナがあり倒しにくるのか)と思わせる心理戦」
4つのベルトをすべてKOで獲得すれば、それが世界初の快挙であるという記録も頭をかすめた。
「意識した。お客さんの声も聞こえていた。プロとして見せるものをしっかりと見せる。残り2ラウンド。仕留めきれるかどうか自分次第だなと」
左ボデイからのフックの連打で井上はバトラーの心を折った。