日本人女性審判として初のW杯デビューを果たした山下良美氏が語る壮絶舞台裏「国を背負って戦う覚悟が選手たちの顔や雰囲気から伝わってきた」
両チームのベンチ前に設けられたテクニカルエリア内の監視や交代要員のコントロール、前後半のアディショナルタイムの表示など、主審を補助する役割を担う第4審判員は、主審にアクシデントが発生し、任務続行が不可能となった緊急事態には代役を務めることもある。
VARやAVAR(アシスタント・ビデオ・アシスタント・レフェリー)を含めて、ひとつのチームとして、それぞれがベストを尽くして割り当てられた試合を成立させる。試合中は自身の左手を、常に左の腰あたりにあてるポーズが話題になったのも第4審判員の仕事に集中していたからだ。
「ちょうど左の腰のところにあるボタンを押すことで、主審や副審、VARとコミュニケーションが取れるんですね。なので、いつでも声を伝えられるように、常に押せる準備をしていました」
人生が大きく変わった2022年が終わろうとしている。
4月にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で笛を吹き、5月にはカタールW杯に臨む審判団の一人としてFIFAから指名された。7月にはJ2で、9月にはJ1でそれぞれ初めて主審を務めた。その間には審判で生計を立てられるプロフェッショナルレフェリーの一人に、日本サッカー協会から選定された。すべては一本の道でつらなり、目指している未来へと繋がっている。
女性審判員のパイオニアとして、山下さんは壮大な未来を思い描いていた。
「女性審判員が男性の試合を担当することが当たり前になるのが、私の目標とすべきところだと思っています。そのためには目の前の試合に常に全力で取り組むこと。それを意識していきたい」
そしてカタールW杯での役割を終えたいま、新たな目標が加わった。
「すべてと言ったらあれですけども、自分の雰囲気や周囲からどう見えるかとか、判定ももちろんですし、動きとかコミュニケーションの取り方とか、本当にすべてを変えていきたい」
日本からカタールW杯の3位決定戦と決勝を観戦しながら、しばしの休息で心と体を癒やし、充電を完了してから、山下さんのゴールなきチャレンジの続編が始まる。森保ジャパンと並んだもうひとつのW杯の終わりは、次なるステージへ向けた序章となる。
(文責・藤江直人/スポーツライター)