「負ければ引退」覚悟で大晦日決戦に挑む井岡一翔へ”名伯楽”が授けたマル秘作戦とは…「敵の弱点見つけた。動き過ぎず止まらない」
大晦日に大田区総合体育館で開催される2団体統一戦に向け、WBO世界スーパーフライ級王者、井岡一翔(33、志成)が27日、都内の志成ジムで公開練習を行った。コンビを組んで10年以上になる“名伯楽”のイスマエル・サラス・トレーナー(65)も来日し、対戦相手のWBA世界同級王者のジョシュア・フランコ(27、米国)について「弱点を見つけている」と豪語し、勝利戦略の一端を明かした。井岡は、「負ければ引退」の壮絶な覚悟で日本人初の2階級2団体統一の偉業へ挑む。
「1年のいいしめくくりができるように必ず勝ちたい」
入念なストレッチから軽快なシャドー。練習の一部を公開した井岡は「いい準備ができている。自信を持って試合に臨みたい。レベルの高い試合を見せて、応援してくださっている皆さんが、1年のいいしめくくりができるように必ず勝ちたい」と口を開いた。
ビッグマウスではない。根拠のある言葉だ。
数多くの世界王者を誕生させてきた“名伯楽”ががマル秘作戦を授けた。フランコを分析したサラス・トレーナーはこう断言した。
「フランコはワールドクラスのいいチャンピオンであることは間違いない。ただ長所も短所もある。弱点も見つけた。癖もある。もちろん、それが何かは言えないし、ボクシングというのは相手によって変わってくるものではあるが、一翔と我々は勝利のプランを作り上げた」
サラス・トレーナーが、その作戦の一端を明かす。
「フランコはメキシカンスタイルで縦へ一直線の動きだ。そこにカウンターを狙いたい。こちらが下がる、あるいは、動きを止めると、どんどん手数を増やしてリズムにのってしまう。動き続けることが重要になってくる」
動き過ぎずに止まらないーー。
難しい条件をクリアしなければならない。
フランコは18勝(8KO)1敗2分け1無効試合の戦績を持つ好戦的なボクサーで、それほどKO率は高くないが豊富な手数とメキシカン特有のリズムで圧倒してくる。調子に乗せてしまうと手数でポイントをもっていかれる危険がある。井岡も「相手の攻撃をしっかりとディフェンスして攻撃を組み立てたい」と話していた。
サラス・トレーナーは「相手との角度をつけてポジションを決めるステップ」「上体の動き」「ブロッキング」の3つのディフェンス技術の精度を上げることに集中させ、「その技術をサポートするため」米国ラスベガス合宿では早朝の山登りトレを課した。
井岡も「心臓が破れないかなというくらいに苦しかったが、自分のためだと憂鬱な気持ちで走った」という。
フランコがタイトルを奪い、負傷による無効試合を含む3試合を連続で戦った“因縁”のアンドリュー・モロニー(31、豪州)は、足を使うアウトボクサーで、ステップワークを駆使したが、“止めること”ができなかった。サラス・トレーナーは、そのモロニーの敗戦から、ある教訓を得たという。
「モロニ―は動き過ぎた。リングの中央で戦い、動き過ぎずに動きを止めずフランコのペースにしないというテクニックがいる。井岡にはそれができる」
ここ2年は、新型コロナの影響で、井岡は、米国ラスベガスで合宿ができず、サラス・トレーナーとの試合前の作戦会議は、リモートで行われ、スパ―リングの中での綿密な練り込みができなかった。しかし、今回は10月28日から12月19日まで約7週間にわたって計101ラウンドのスパーリングをサラス・トレーナーが用意した世界ランカークラスのベネズエラ人と2人のタイプの違うメキシコ人を相手に消化。対フランコ戦略を完璧に磨き上げることができた。
井岡も「充実感を感じる。みっちり(サラス・トレーナーと)7週間できたことで質も上がっている。感覚的にいい」と手応えを感じている。
30歳を超え、円熟味が増した井岡のボクシングは、“省エネ”とも言えるファイトスタイルに徐々に変わりつつある。元5階級制覇王者のノニト・ドネア(40、フィリピン)がそうだが、できるだけ無駄な動きをそぎ落とし、必要最低限の動きの中で効率のいい攻防を選択する。サラス・トレーナーからの注文の「動き過ぎずに止まらない」ーーも可能だ。