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井岡の右アッパーがフランコの顔面を襲う。手数では圧倒されたが、有効打の数は井岡だった(写真・山口裕朗)
井岡の右アッパーがフランコの顔面を襲う。手数では圧倒されたが、有効打の数は井岡だった(写真・山口裕朗)

なぜ井岡一翔は世界ベルトを統一できなかったのか…ドローに割れた判定基準とWBA王者のタフネスという2つの誤算

プロボクシングのWB0&WBA世界スーパーフライ級統一戦が31日、大田区総合体育館で行われ、WBO世界同級王者の井岡一翔(33、志成)とWBA世界同級王者ジョシュア・フランコ(27、米国)の戦いは、判定にもつれこみ、ジャッジの1人が「115―113」でフランコ、2人が「114―114」とつける0-1のマジョリティードローとなった。有効打は井岡、手数、攻勢はフランコという展開にジャッジの判定も微妙に割れてベルトの統一はならなかった。それぞれのベルトの防衛となる。次戦は、WBOのランキング1位の前WBO世界フライ級王者、中谷潤人(24、M.T)との指名試合が濃厚だが、フランコサイドは再戦を求め、緊急来場したWBC世界同級王者のファン・フランシスコ・エストラーダ(32、メキシコ)は、試合後に井岡と対面。「オファーがあった方と戦うが個人的には井岡と戦いたい」と“ラブコール”を送った。

 「自分の感覚では勝っているという確信があった」

 

 12ラウンド終了のゴングが、ようやく暖房の効き始めた大田区総合体育館に響いた。
 井岡は右手を上げ、フランコは両手を上げた。
 ダウンシーンもぐらつかせたシーンも互いにない。
「自分の感覚では勝っているかなと。確信があった。手ごたえを感じながら戦っていた」
 井岡は勝利を確信していた。
 一方のフランコも「自分が優れていた」と勝利を信じていた。
 3700人に観衆が息をのむ中で採点が読み上げられる。
 スタンリー・クリストドーロ―氏(南ア)は「115―113」でフランコを支持。そして残る2人は「114―114」でドロー。0-1のマジョリティドローで井岡はベルトは失わなかったが、2階級2団体統一王者の悲願を果たすことができなかった。
 リング上で井岡はファンに「申し訳ない」とお詫びをした。
 インタビュールームで記者団に囲まれると、「悔しい。勝つためにやってきたんで。結果は甘くなかった」と悔しさをにじませた。
 誤算があった。
 陣営のポイント計算と、実際のジャッジペーパーがまるっきり逆だった。
 1ラウンドで向き合った瞬間に「距離ははまる。うまく(パンチを)外しながらリードからコンビネーションにつなげる」との好感触があり「いい流れになっている。序盤、中盤はポイントを取った」と計算していた。
 フランコに前に出られて、手数と勢いで圧倒されたが、そのほとんどを上体の動きと、ステップバックで外してロープにつめられても鉄壁のガードでクリーンヒットを許さなかった。井岡は、サイドに動き、必ずボディを絡めた3つ、4つの高速コンビネーションを空いたスペースに打ち込み、左のジャブにかぶせた右のカウンターをヒットさせ、「準備してきたことが出せている」との手応えがあったのである。
 だが、フランコの勝ちにしたクリストドーロ―氏は、1ラウンドから7ラウンドまでをすべてフランコ、ファーリン・マーシュ氏(ニュージーランド)も前半の4ラウンドすべてをフランコにつけた。手数と攻勢を評価したのである。
 試合後の採点表を見た井岡は「クリーンヒットをもらった感覚はない。ジャッジの見方はいろいろあるんで、そういうジャッジの取り方をしたんだ」と目を丸くしていた。
 実は、有効打を取るか、手数を取るかの判断基準は、審判によってバラバラで、こういう“誤算”が起きることは少なくない。
 リングサイドで観戦した次戦で指名試合として対戦濃厚の“ネクストモンスター候補”の中谷も「最初は井岡さんがポイントをとってフランコ選手の頑張りも目立った。採点をつけていなかったが、(手数か、有効打か)どっちに振り分けるか。ジャッジに委ねるしかない試合展開」と感想を話したが、まさにそこが一種のブラックボックスなのだ。
 判定基準としては、有効打を最優先することになっている。だが、WBAのジャッジは、明らかな有効打がない場合、手数、攻勢点を支持する傾向が強い。またラスベガスルールという呼称があるくらい、ラスベガスのビッグファイトにも、その傾向がみられる。フランコの勢いが止まらず、井岡が下がる展開が多かっただけに、なおさら印象は悪かった。序盤戦でフランコを支持した2人のジャッジはWBAが派遣した2人である。
 WBOが派遣したホセ・ロベルト・トーレス氏(プエルトリコ)は1ラウンド、3ラウンドは井岡のクリーンヒットを支持していた。

 7ラウンドから井岡の反撃が始まる。左ジャブの打ち終わりにかぶせる右のカウンターが2発、綺麗に決まった。
 そしてイスマエル・サラス・トレーナーが発した「ブロックの時間が長くならないように」のアドバイスが合図だった。終盤に井岡は、勝負を仕掛けた。これでもかと右を叩き込み、フランコの勢いをはね返すような高速のコンビネーションブローで対抗した。チャンピオンズラウンドと呼ばれる最後の2ラウンドでさらにエンジンをかけた。
「もうラスト。試合としていいパフォーマンをしたいし、ファンに喜んでもらいたい。統一戦としてレベルの高い試合をしたいという思いが強かった」
 王者のプライドを胸に井岡は、被弾のリスクを負って試合を作りにいったのだ。ジャッジ3人が、9、10ラウンドを井岡につけ、最終ラウンドも2人が井岡を支持していた。結果的に、この判断がなければ、2人のドロー採点もフランコに傾いて負けていた。

 

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