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井岡の右アッパーがフランコの顔面を襲う。手数では圧倒されたが、有効打の数は井岡だった(写真・山口裕朗)
井岡の右アッパーがフランコの顔面を襲う。手数では圧倒されたが、有効打の数は井岡だった(写真・山口裕朗)

なぜ井岡一翔は世界ベルトを統一できなかったのか…ドローに割れた判定基準とWBA王者のタフネスという2つの誤算

 実は、もうひとつの誤算があった。
「思った以上にタフだった。もう鈍るかな。右のストレートのカウンターで(手数が)止まるかなと思ったが止まらなかった。凄いメンタルと集中力で終盤も立て直してきた」
 27歳のWBA王者のタフネスである。
「相手を止めて、好戦的にもっと削って、疲れたところでプレッシャーをかけて差をつけたかった」。それをさせてくれなかったのである。
 佐々木トレーナーも言う。
「作戦はすべて計画通りにうまくいった。パンチは外していたし、こちらのパンチは確実にクリーンヒットしていた。陣営として勝ったと確信があった。ただ、想像以上にタフだった。対策を練られてボディはかなり警戒されていたし、前に出てこれられた分、ほんの少しだが、距離がつまり右ストレートが与えるダメージも減ったのかもしれない」
 一方のフランコは、意外にも判定への怒りは見せずに、「井岡はスピードはあったが、効いたパンチはなかった。(こちらが)スローダウンしたラウンドがあったのが問題だった。ジャッジの判定はリスペクトしている」と、ドロー判定を受け入れていた。
 元IBF世界王者で、全米屈指の名トレーナーとして知られるロバート・ガルシア・トレーナーも「ここは井岡のホームタウン。こういうこともある」と不満を口にすることはなかった。ただ「リマッチをまた日本でしたい」と再戦を熱望した。

 決戦4日前に行われた公開練習で驚いたことがある。井岡の後頭部に2つ。小さな“10円ハゲ”ができていたのである。念願の統一戦が決まり想像を絶するプレッシャーがあったのだ。
 勝てばビッグマッチへの道が開けるが「負ければ引退」である。7月に第二子が誕生。愛する家族のためにも絶対に負けるわけにはいかなかった。
「そのとき、そのときにプレッシャーがある。日々、自分と戦ってきて、いい緊張感があった」
 家族と離れての2か月に及ぶ米国合宿。「負ければ終わり」の恐怖に打ち勝つための自信を構築する1日、1日の思い詰めたようなトレーニングの中で想像を絶するストレスがあったのだろう。だが、その日々こそが、結果的に「勝てなかったが、負けなかった」というドローを引き寄せたのである。
 井岡はプロキャリア32戦目にしての初のドローをこう受け止めていた。「ここから自分を試され、自分を問われる。そこで証明していくしかない」
 新たな決意である。

 

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