“塩試合ドロー”で総合格闘技引退からたった1日でボクシング引退?元五輪金メダリスト石井慧が表明した引退宣言が波紋…所属ジムは「意思は尊重するができれば続けて」と撤回を熱望
ミツキジムの関係者は、石井のライセンス取得に必要な申請書類を揃えるため年末を返上して走り回った。JBC側も、慎重に検討を重ねて総合格闘技界から身を引いてボクシングに専念することを確認した上で、ライセンスを許可した。せっかく周囲が苦労して認められたライセンスをたった1試合しただけで引退するとは…動いた周囲の人々の努力を愚弄する自分勝手な行為と受け止められたも仕方ないだろう。
せっかくライセンスを取ったのに本当に引退するのですか?
筆者は、そう直撃したが、石井は「もういいっす。これで最後です」と繰り返した。自らのボクシングの実力に見切りをつけたようだった。
だが、ミツキボクシングジムの中村喜吉治会長は、意外と冷静に受け止めていた。
「発言には驚きましたが、選手ファーストがうちのジムの方針なんでね。石井選手の今の気持ちがそうであれば、尊重はしたい」
もちろん現役続行を願う気持ちも強い。
「ただ押し込むだけの試合になってしまって、あれではボクシングの試合ではポイントにならない。練習次第では、まだまだ成長の余地もありますし、彼がジムに来てくれるだけで、若い選手への刺激や影響力が大きいんです。練習への取り組み方も凄いしやはり元五輪金メダリストのオーラみたいなものがあるんでね。せっかく苦労してボクシングライセンスを取ることができたのですし、できれば現役を続行してもらいたい。今、試合が終わったばかりで、瞬間的に、もうボクシングは向いていないと思い詰めたのかもしれないし、落ち着いたら、考えが変わるかもしれない。後日、ゆっくりご飯でも食べながら話をしてみますよ」
中村会長は、後日、石井と現役続行説得の会議を持つという。
北京五輪で金メダルを獲得した直後に総合格闘家への転身を表明して周囲を驚かせた石井は、デビュー戦で吉田秀彦に敗れ、その後、世界中を武者修行に回り、ヒョードルやミルコ・クロコップらとも対戦した。米国で柔道復帰にトライしてみたり、クロアチア国籍は取得するなどのスケールの大きな挑戦、あるいは見方によっては迷走を続けてきた。
たった2試合でボクシング引退を口にした36歳の元金メダリストはどこへ向かおうとしているのだろうか。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)