2023年のF1界注目は”チーム内バトル”の行方…フェルスタッペンvsペレス、サインツvsルクレールなどに”不協和音の火種”?!
そのひとつが、2022年にドライバーズ選手権で2位になったシャルル・ルクレールを優遇させるものではないかという噂だ。
というのも、新代表のバスールはアルファロメオ時代にルクレールと仕事をした経験があるだけでなく、ルクレールがF1にデビューする前のジュニアカテゴリー時代にも同じチームでレースを戦ったことがある。フェラーリは伝統的にチーム内の序列を重んじてレースをしてきたが、ビノット代表はその伝統に反してドライバーを平等に扱ってきた。
2022年はそれがことごとく結果的にルクレールに不利に働き、フェルスタッペンとのチャンピオンシップ争いで後手を踏み、その責任をとらされる形でビノットが辞任したと言われている。
バスールを招聘したことで、チーム内の序列は明確になるだろうが、それをチームメートのカルロス・サインツが黙って受け入れるとは思えない。かつて7冠王者のミハエル・シューマッハがいた時代のフェラーリには、チームメートは契約で必要に応じてシューマッハをサポートしなければならないと定められていたが、現在のフェラーリとサインツとの間にはこのような契約は存在していないはずだ。
しかも、サインツの父親であり、マネージャーも務めているカルロス・サインツ・シニアはかつてラリーの世界選手権でチャンピオンになった強者。息子がフェラーリ内で冷や飯を食わされるようなことにでもなれば、決して黙ってはいない。バスールの采配に注目が集まる。
無冠に終わったメルセデスにも、不協和音が生まれる可能性がある。7冠王者のルイス・ハミルトンがメルセデスで獲得した6度のタイトルのうち、直近の4回はチームメートがバルテリ・ボッタスだった。ボッタスも通算10勝を挙げている素晴らしいドライバーだが、ハミルトンには及ばず、結果的にサポート役に甘んじてきた。
しかし、2022年から新しくハミルトンのチームメートとしてメルセデスに加入したジョージ・ラッセルには、ハミルトンのサポート役を演じようなどという考えは、まったくない。
2022年はメルセデスのマシンに問題があったため、結果的にチーム内のバトルは表に現れなかった。だが、もしメルセデスがマシン開発に成功し、2023年にチャンピオンシップ争いするまでに復活してきた場合、2人の関係は2022年と同じままとはいかなくなることは自明の理だ。
異なるチーム同士の戦いも迫力満点だが、チームメート同士のバトルは「セナ・プロ対決」のように時に異なるチーム同士の戦い以上の骨肉の争いに発展する。2023年のF1には、そんな匂いが漂っている。
(文責・尾張正博/モータージャーナリスト)