なぜ”ミライモンスター”松本圭佑はスキンヘッドにイメチェンして7戦7KOのパーフェクトレコードを継続できたのか?「脱毛症に悩む人達に勇気を与えたい」の思いとライバル堤駿斗からの刺激
松本は派手に喜びを表現することはなかった。
「パンチをもらったし、カットもした」の反省がある。
父も目の上をカットした点に「目で避けようとするので頭が当たった。サイド、ステップバックを使えば避けられた。(圭佑は)僕の現役時代よりパンチがあるが、親からすれば、もっと被弾を少なく、ディフェンス技術を向上してもらいたい」と注文を付けた。
それでも“ミライモンスター”は確実に進化を遂げていた。”音無しのジャブ”に加え、右ストレート、右アッパー、1度目のダウンを奪った左フックと、ひとつひとつのパンチの精度とスピード、威力が増していた。志成ジムの野木丈司トレーナーが広く格闘家などにも解放している“通称「野木トレ」に参加してスタミナとフィジカルを強化。体もでかくなった。その分、減量は苦しくなるが、リカバリーのテクニックも会得しつつある。
7戦7KOのパーフェクトレコードを継続した。
「KOにこだわるとKOにつながらない。KOするためには、無理やりいくんじゃなくて、流れの中でのカウンターとかが必要」
そんなKO美学も構築しつつある。
気になるライバルの存在がある。
昨年夏にデビューしてきたアマ13冠の堤駿斗(23、志成)だ。高校時代に4度対戦して1勝3敗。13冠のうち3つは松本が決勝で敗れて献上したものだ。東京五輪の夢が破れた松本が、2年前に先にプロ入りして連続KO記録を続けてきたが、堤はデビュー戦からフルラウンドを戦い、大晦日のプロ第2戦目には、前OPBF東洋太平洋スーパーバンタム級王者から、ダウンを奪い、判定勝ちした。その堤の試合に「刺激を受けた」という。
「彼は僕の後からデビューしたにもかかわらず、対戦相手だったり(試合内容などで)先を行かれている感じがします。僕も負けられない」
キャリアの数字だけを見れば、松本が上回っているが、長年のライバル関係を築いた松本にしかわからぬ競争があるのだろう。
大橋会長は「今年は勝負した方がいい。タイトル戦?そう。いい相手でないと良さが出てこない」とタイトル挑戦へGOサインを出した。
その言葉を聞いて松本も目を輝かせた。
「選手としてはよくないかもしれないが、相手のレベルが上がる方がしゃきっとする」
ジムでは、バンタム級の4団体統一王者の井上尚弥(29)や元WBC世界暫定バンタム級王者の拓真(27)らとスパーリングをしてきた。
「一発ミスると倒されるという油断のできない脅威の中での駆け引きで本能が引き出される。持っている能力を全部出さないと飛ばされてしまうんです。そういった試合をしたい」
ここまでの相手に物足りなさを感じ、“ライバル”堤の2試合のマッチメイクをある意味、うらやましく思っていた松本にとって、会長のGOサインは待ちに待った指令だった。
現在日本フェザー級の3位。「父と同じ階級でチャンプに」のこだわりがある松本は、この階級でのタイトルを狙いたい考えで、ターゲットとなる日本王者は、WBOアジアパシフィックとの“2冠”の阿部麗也(29、KG大和)だ。OPBF東洋太平洋同級王者は、同じジムの清水聡(36)なので対戦はできないが、世界戦へ照準を絞る清水は、このベルトを返上する方向で、今後のランキング次第で、阿部と共に、この王座決定戦も狙いのひとつになるのかもしれない。
プロ入り初のメインという大役を果たした松本が言う。
「もっとパーフェクトなボクサーになれるように頑張る。人気のある選手になりたい。みんなが見たいと思うボクサーになりたい」
2023年は“ミライモンスター”の呼び名から“ミライ“の3文字を外す年にしたい。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)