青森山田高監督からFC町田ゼルビアへ”異色挑戦”する黒田剛氏はどんなサッカーを目指すのか…新加入の19人から見えてきた輪郭
高さと強さを前面に押し出して守りを安定させ、その上でセットプレーを中心にゴールを狙っていく。さらに敵陣で直接フリーキックやコーナーキックを数多く獲得する上でタフに、かつ泥臭く戦うために、黒田監督はこんな要望も出していた。
「2列目や両サイドの選手に関しては、戦術的な交代を可能にしたいと。つまりインテンシティーの高いフレッシュな選手を、常に置いておきたいと」
こう語った原ダイレクターはJ2やJ3だけでなく新卒の選手からも、黒田監督の要望を満たすタイプをできるだけ多く獲得した。町田で目指す戦いを「絶対に負けないサッカー」と位置づける指揮官が、高さと強さを前面に押し出してまず守備を安定させ、その上でセットプレーを中心にゴールを狙う。堅実な戦い方がベースにすえられるのは確実といっていい。
さらに最前線には外国人選手の強力な“個の力”も加わる。
カタールW杯での活躍で評価を高めたデュークと、2019年8月から約1年半在籍したマリノスで21ゴールをあげたエリキのダブル獲得。補強戦略を練っていた過程で、J1へ昇格する確率をさらに上げるためにも必要なのではないか、という結論に達したという。
特にチュニジア代表とのグループステージ第2戦で決勝点をゲット。オーストラリアを決勝トーナメントへ導く立役者の一人になったデュークに関しては、カタールW杯を契機に争奪戦が繰り広げられていたと原ダイレクターが舞台裏を明かした。
「デュークはすごく走れて、攻守の切り替えも速い。守備もできる点で黒田監督が求める選手でしたが、とにかく交渉が難航しました。J1だけでなく、中東のクラブも加わっていたので」
最終的に町田が制したのは、2018年10月に町田の経営権を取得したIT大手、サイバーエージェント(本社・東京都渋谷区)の藤田晋代表取締役社長(49)が、昨年12月1日に町田の代表取締役社長兼CEOに就いた人事と深く関係していると言っていい。
長く懸案事項とされてきた練習場やクラブハウスなど、J1で戦うために必要なハード面の整備をほぼ完了。次はトップチームの戦力強化へ本腰を入れた証がデュークであり、エリキであり、名より実を取った感の強い他の17人の大型補強となる。
新体制はすでに10日から始動。黒田監督に対してプロの選手たちが抱いていた、1995年から指導してきた青森山田高を全国屈指の強豪校に育て上げた勝負強い指揮官というイメージはさらに強くなった。川崎フロンターレ時代にJ1リーグ優勝を経験した下田が言う。
「全体ミーティングでは、ストレートに『勝ちにこだわりたい』と言っていました。プロの監督は同じような表現をしますけど、こだわりをより強く感じたというか。やりたいサッカーや戦術はいろいろとあるかもしれないけど、それよりも戦う姿勢やチーム全体で一体感を持つところなど、サッカーの本質的な部分を大事にしていると思う。そこをサボらないようにしながら、プロサッカー選手としてそれぞれが持っている特徴を出していきたい」