ボクシング転向正式表明の那須川天心は”モンスター”級の世界王者になれるのか…エキシで対戦経験のある亀田興毅氏の見解とは?
――天心の実力はどのレベルにあると感じましたか。すでに日本ランカーレベルにあるという意見もあります。
「うーん。ボクシングの8オンスグローブでどこまでやれるか、すべてが未知数。ラウンド数もキックとは違います。判断は難しいですが、まずはB級(6回戦)からスタートという段階じゃないですか」
亀田氏は天心には長所が6つあるという。
「スピード」、「当て勘」、「距離感」、「ステップワーク」、「ディフェンス力につながる目」、「パンチを繰り出すタイミング」の6つだ。
「スピードはあります。そしてパンチの当て勘、とにかく距離感がうまい。独特の間合い、空間を持っているんですよね。僕とは、サウスポー同士になりましたが、懐が深く、思っていたより距離が遠い。やりにくいんです」
キックはボクシングより距離が近いと言われているが、亀田氏が感じた天心の最大の長所は、その距離感の作り方だという。
「キックの動きが影響しているのかどうかわかりませんが、足運び、いわゆるステップワークがうまいんです。いいポジションから打ってくるしディフェンスもできます」
ボクシング転向の課題のひとつとされるディフェンス面に関しても「パンチを見切る目がいい」と評価した。
気になるのはパンチ力である。これについては意見が分かれている。
「THE MATCH」では、武尊から戦慄の左カウンターでダウンを奪うが、戦意を奪うまでには至らなかった。亀田氏は「武尊選手の打たれ強さを考えると参考にならないでしょう」と笑う。亀田氏が対戦した際は12オンスのグローブに1、2ラウンドはヘッドギアを装着していたが、「しっかりとしたパンチ力はある」と感じたという。
「じゃあ、めちゃくちゃあるのか?と聞かれれば、そうではなく、タイミングで倒すオールマイティなボクサーでしょう。ボクシングはパンチ力がすべてではない。パンチを出すタイミングに天性のものを感じます。これは対戦しないとわからない部分」
パンチ力よりも優れたカウンター技術。ボクシングはタイミングのスポーツだが、その天性の素質を持っていて、亀田氏は「戦っていて頭の良さを感じました」と、組み立てやチャンスとピンチを嗅ぎ分ける“ボクシング脳“に驚いたという。
ただボクシング転向に関してクリアすべき課題はある。
キックは基本3ラウンド、長くて5ラウンドだが、ボクシングは日本タイトルで10ラウンド、地域タイトル、世界戦では12ラウンドを戦わねばならない。
「フィジカル面は鍛えられて問題はないと思いますが、ボクシングはラウンドが長い。そこに対応するのには時間がかかると思います」
そして、もう一つの課題が、キックとボクシングの重心の位置の違い。キックはいわゆるアップライトと呼ばれる“後ろ重心“が基本スタイルで、さらに天心はカウンター狙いの戦術を採用していたため、パンチに体重が100%乗ってこない。
「重心の位置は確かに違います。でも、名門帝拳ジムさんですから、その部分を適応させるためにめちゃくちゃトレーニングをしているはずです。すでに昨秋に行った米国合宿も、ボクシングバージョンへのモデルチェンジを徹底する狙いがあったと思うんです。海外の方がスパーリングパートナーの相手も多く、いろんなタイプの選手が揃うので会得が早いですから」