阪神の藤浪晋太郎がアスレチックスに入団した舞台裏とは?…4年前の2軍落ちのタイミングからマーク
もっとも、当初は手が届くとは考えていなかったよう。
「藤浪のことは、ずっとマークしていた」そうだが、高卒から3年連続で二桁勝利を挙げた時点で、あきらめざるを得なかった。その意味は、説明するまでもない。
その時点でリストから外したが、獲得に向けて、本格的にスカウティングを開始したのは、「2019年に彼が2軍に落ちたとき」とフォーストGMは明かす。
おそらくこれで、獲得に必要な金額が下がる。ライバルも減るーー。そういうことではなかったか。
普通なら見放すタイミングだが、彼らは逆。
「我々はくすぶっているプロスペクトにチャンスを与え、ポテンシャルを引き出す戦略をとっている」と話したのは昨年11月のこと。続けて、「日本にもそういう選手はいる」とも口にした。
名前までは出さなかったが、それが藤浪だったのだろう。
若手にチャンスを与え、再生の道筋を示す手腕に関しては、会見に同席した代理人のスコット・ボラスも認めるところ。
「フランキー・モンタス、コール・アービン、ジェームズ・カプリーリアン(すべてボラスのクライアント)らは、アスレチックスへ移籍してから成長した。藤浪もここのシステムなら、任せられると思った」
両者を結びつけた最大の理由は、思惑の一致だ。
先発にこだわった藤浪と、その機会を提供できるアスレチックス。フォーストGMは、「先発する機会が与えられることは、彼にとって重要だった。我々は日本でその姿を見てきた。だから彼には、先発を任せるつもり」と明言し、続けた。
「実績を考えれば、彼は我々の先発ローテーションで重要な役割を担うことになるだろう」
一方の藤浪も、「スターターをやりたいと思って、MLBに挑戦したのもありますし、スターターとして勝負させてもらえることを幸せに感じています」と応じた。
アスレチックスとしては、適応にそれなりの時間を与える見込み。基本的には5人で先発ローテーションを回す予定だが、藤浪が不慣れな中4日への適応に時間を要するなら、「6人で先発を回すことも考えている」とフォーストGMはサポートを約束した。
契約は1年。再生が成功すれば年俸は高騰し、アスレチックスにとって再契約は難しくなるが、いきなり結果を出せば7月にトレードしてプロスペクトを獲得するといういかにも彼ららしい、したたかな戦略も透けて見える。むろん、そこで優勝を争うチームに移籍できるなら藤浪にとってもプラスで、今回の契約には、幾重にも互いのメリットが張り巡らされていた。
(文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)