W杯で不完全燃焼だった相馬勇紀は移籍決定のポルトガル1部カザピアで「世界のSOMA」になれるのか?
J1の名古屋グランパスは20日、日本代表MF相馬勇紀(25)がポルトガル1部カザピアへ期限付き移籍すると発表した。期限は今年6月30日まで。昨年のカタール大会を含めて、日本の歴代W杯メンバーで最小兵となる身長166cmの相馬は、かねてから「身長の低さを武器にしている」と公言。東京五輪でも共闘したDF酒井宏樹(32、浦和レッズ)から伝授された、小さな体を生かす“必殺ドリブル”に磨きをかけて大柄で屈強なディフェンダーたちへ勝負を挑む。
「世界のSOMAになってきます」
山椒は小粒でもぴりりと辛い。体が小さいからといって侮れない――を意味することわざを体現し続けてきた相馬が、挑戦の舞台を念願のヨーロッパへ移す。
2023シーズンへ向けて名古屋は8日に始動した。しかし、海外クラブへの移籍交渉を進めている、という理由で相馬は初日から不参加が続いていた。そして、沖縄・南風原町での一次キャンプが打ち上げられた20日に相馬の新天地も決まった。
今シーズンに約80年ぶりにポルトガル1部リーグへ昇格。アビスパ福岡から慶南FC、全北現代をへて昨年7月に加入したMF邦本宜裕(25)が主軸を担い、折り返しを前にした時点で5位につける好調のカザピアへの期限付き移籍。相馬は名古屋を通じて、最後を「ありがとう」を意味するポルトガル語で締める、闘志に満ちたコメントを発表している。
「名古屋グランパスというクラブを背負い、東京五輪、カタールワールドカップに出場したことは僕の誇りです。支えてくれた全ての皆さま、本当にありがとうございました!世界のSOMAになってきます!オブリガード!」(原文ママ)
東京都調布市出身の相馬は、小学生年代から総合スポーツクラブの三菱養和SCでプレー。早稲田大を経て2019年に名古屋へ加入し、鹿島アントラーズへ期限付き移籍した同シーズンの後半を含めて、J1リーグで通算128試合に出場してきた。
挑戦の舞台を初めて海外へ移す上で、コメント内で言及した「世界のSOMA」になるための手段もすでに体得している。相馬のサイズは身長166cm体重68kg。日本中を熱狂させた先のカタール大会を含めて、日本の歴代W杯メンバーのなかで最小兵となる身長を、相馬はかねてから「その低さを武器にしている」と公言してはばからなかった。
そして、身長へ抱いてきた矜恃を世界レベルへと高めてくれたのが、東京五輪を直前に控えた2021年7月に酒井からもらったアドバイスだった。
静岡県内で行われていた強化合宿。ゲーム形式の練習で相馬は得意のドリブルを駆使し、オーバーエイジとしてU-24代表に招集された酒井を抜きにかかった。間合いを詰めた相馬が制したかに見えた攻防はしかし、体勢を立て直した酒井に軍配が上がった。
酒井を前にした相馬が横へ一歩かわした判断が、結果として酒井に身長185cm体重78kgの巨体をねじ込まれ、対人守備の強さを発揮されてボールを失う結果を招いた。直後のひとコマ。酒井は相馬を呼び止め、ピッチの上で言葉を交わしていた。
相馬へアドバイスした内容を、酒井はこう明かしている。
「あの場面では(相馬)勇紀が体格を生かしてそのまま僕の下に潜り込んで、ボールをひとつ前へ運び出してしまえば、僕がちょっと勇紀に触れただけでおそらくファウルを取られる。勇紀だったらできると思って、声をかけさせてもらいました」
ヨーロッパで9年プレーしてきた酒井はDFの立場から、相手に仕掛けられたプレーで最も嫌なものを相馬へ伝えた。横へかわすのではなく前へ、そして下へ。小さな相馬が駆使すれば大柄な外国人選手はさらに後手に回り、場合によっては焦ってミスを犯す。
実際に敵陣で相手の背後へ抜け出せば、一気に得点チャンスが生まれる。ファウルで止められたとしてもペナルティーエリア内ならPKを、近くでも直接FKを獲得できる。相手の懐へ潜り込むドリブルを“囮”でちらつかせる駆け引きも可能になる。