西武の今季スローガン「走魂」って何?その言葉に込めた松井稼頭央監督の狙いと思いとは?
現役時代に覚えた快感も、今シーズンのスローガンには込められている。二塁打を放った際にスタンドからは「三塁へ行くんか、行かんのか」というハラハラ、ドキドキ感が常に伝わってきたと振り返った松井監督は、さらにこう続けた。
「なので、僕は常に三塁へ行こうと思っていた。勝利はもちろん重要ですけど、野球はエンターテインメントでもありますからね。選手たちにもそこをしっかり意識してもらって、一緒にシーズンを戦っていきたいと思っています」
隙のない走塁は、西武の伝統でもある。
いまも語り継がれる1987年の巨人との日本シリーズ第6戦。八回二死一塁で秋山幸二が中前打を放った場面で、走者の辻はクロマティの緩慢な返球と中継に入った川相昌弘の体勢に乗じて一気に生還。日本一を決定的にするダメ押しのホームを踏んだ。
ただ単に足が速い、遅いという以上にグラウンド上の状況を選手個々が瞬時に見極め、自らの判断でひとつ先の塁を奪えるかどうか。問われるのは隙を見抜く力であり、その積み重ねが相手に嫌がられる新生・西武の野球を形成していく。
連覇した2018、19年を含めて、西武のチーム防御率は2021年まで4シーズン連続でリーグワーストに甘んじてきた。一転して昨年はリーグ1位の2.75をマーク。山川頼みの打線を投手力がカバーする形で3位へ食い込んだが、鉄壁のブルペン陣から不動のセットアッパー、平良海馬が先発転向を直訴。今シーズンからは念願のまっさらなマウンドに立つ。
2月6日からはA班が宮崎・南郷で、B班が高知・春野でキャンプをスタートさせる。オリックスと対戦する3月31日の開幕戦へ向けて、昨年の最優秀中継ぎ投手に輝いた平良が抜けた勝ちパターンの救援陣を再構築するだけでなく、秋山翔吾(現広島)が在籍した2019年を最後になかなか確立できない1番打者も見極める作業も待っている。
「リーグ優勝と日本一という大きな目標がありますけど、いろいろな意味での走る要素を積み重ねていって、その最後には、という気持ちでいます」
あらためて力を込めた松井監督は、YouTubeでの配信を通してファンへ公言した走魂に「いいスローガンになってくれたらいいですね」と目を細めた。野球の原点に“走”をすえる新指揮官が、その過程で“魂”を融合させながらチーム改革を進めていく。
(文責・藤江直人/スポーツライター)