なぜJ開幕戦の広島対札幌戦で勝敗を左右する誤審が起きたのか…再試合は行われず試合はスコアレスドローで成立
同席した足立修強化部長も納得した上で、今後へ向けてこう綴っている。
「現在は映像で判定を下していますが、JリーグもいずれはカタールW杯で使用されたテクノロジーを導入しなければならない時代に入ってきたと思います」
機械の目を介してゴールを判定する手段として、GLT(ゴールライン・テクノロジー)があげられる。22日の理事会後にブリーフィングに臨んだJリーグの野々村芳和チェアマン(50)は誤審の件を問われると、GLTに関して「現実問題として難しい」と見解を示している。
「ざっくりですけど、導入するのに機材などを含めたものだけでも10億円くらいかかる。かつ現時点ですべてのJ1スタジアムで、GLTを導入できるわけでもない。スタジアムの高さであるとか、ゴールラインのところにカメラを置けるような場所のないスタジアムもあるので」
JFA審判委員会は21日夜に、今シーズンのJ1でVARを担当している審判員とリモート会議を行って今回起こった事象を共有した。渦中の広島-札幌を担当した計6人の審判団について、扇谷委員長は「正直、ピッチ上の4人に何かを、ということはありません」と御厨主審と2人の副審、第4審判員に関して瑕疵はなかったという見解を示した。
一方でVARとAVARの2人には「VARとしては、ある程度の指導や教育が必要になると今回は考えています」と、一定の期間を空ける方針を明かした。
「ただ、ピッチ上のレフェリーとしては、われわれとしては優秀だと思っております。しかし、現状では精神的に非常に厳しい状態ですので、メンタルリカバリーなどをサポートしながら、ピッチ上に関しては復帰のタイミングを待たせていただければと思っています」
人間である以上は、レフェリーは「必ずミスをする」と扇谷委員長は自身の経験も踏まえながら言う。ミスを起こす確率を可能な限りゼロへ近づけていくために、シーズン前からさまざまな研修を積み、世界の潮流に倣う形で2019シーズンからVARも導入した。
それでも起こってしまったミスをあえて誤審として公表し、批判を浴びるのを覚悟の上で謝罪した。広島側が見せた真摯な対応を含めた現実をしっかりと受け止め、VARを含めて、より正確な判定を目指しながら信頼を取り戻す不退転の決意が、緊急ブリーフィングに込められていた。
(文責・藤江直人/スポーツライター)