なぜ大阪で西山和弥の初マラソン日本最高記録を含む6分台ランナーが3人も生まれたのか…好記録連発の背景にカーボン厚底シューズの普及と箱根ライバル…パリ五輪には厳しい現実
そして瀬古リーダーが指摘していたように他の日本人選手が好タイムを残した影響も大きい。互いにライバル心を刺激しあうというプラスの連鎖だ。
2017年以降、設楽悠太(Honda)、大迫傑(Nike)、鈴木健吾(富士通)がナイキのカーボン厚底シューズで日本記録を塗り替えるなど、好タイムが続々と誕生した。なかでも2021年3月のびわ湖毎日マラソンがターニングポイントだったような気がしている。
鈴木が2時間4分56秒の日本記録を樹立しただけでなく、6分台が4人、7分台が9人、8分台が13人も出たからだ。チームメイトや箱根駅伝でしのぎを削った大学時代のライバルや仲間など身近な存在が2時間6~8分台で走ったことで、メンタル的に〝記録への壁〟がなくなった部分もあるだろう。
今回の大阪マラソンで快走した西山は、優勝インタビューで「去年星君が、このコースで、初マラソン日本最高を出したのを見て、自分にも可能性があれば出したいなと思っていた」と語っていた。
大阪マラソンで日本人トップを争った西山と池田は、大学時代に箱根駅伝で東洋大と日体大の主力として1区で競い合ったことがある。
また現在25歳前後の選手は箱根駅伝を疾走した学生時代からカーボン厚底シューズを履いてきた世代になる。レースはもちろん、練習でも同モデルを使用しており、薄底シューズでマラソンを走ってきた世代とは感覚が異なる。2時間7~8分台は好タイムではなく、「出して当然」という意識になっているのではないだろうか。
一方で、パリ五輪で世界と戦うことを考えると直視しなければいけない現実もある。シューズの恩恵を受けているのは日本人選手だけではない。世界のマラソンのレベルが〝高騰〟しているのだ。
2010年、2016年、2022年の世界リスト【1位/50位/100位/150位】を比べると、記録の〝本当の価値〟が見えてくる。
2010年【2:04:48/2:08:29/2:09:41/2:10:45】
2016年【2:03:03/2:08:01/2:09:28/2:10:46】
2022年【2:01:09/2:06:08/2:07:14/2:08:04】
ナイキのカーボン厚底シューズが発売前の2016年は世界リスト50位が2時間8分01秒、同100位が2時間9分28秒、同150位が2時間10分46秒。6年前の2010年と比べると、1位と50位の記録水準は上がっているが、100位と150位はさほど変わらなかった。
反対に2016年と2022年の世界リストを比べると、1位は1分54秒、50位は1分53秒、100位は2分14秒、150位は2分42秒もタイムが短縮しているのだ。個人差があるとはいえ世界トップクラスでも約2~3分のタイム上昇が明らかになっている。
好記録に沸く日本勢だが、2022年の世界リストで100位以内に入っていたのは2時間5分28秒(34位)の鈴木健吾と2時間7分14秒(99位)の其田健也(JR東日本)の2名だけだった。
大阪で西山が初マラソン日本最高の2時間6分45秒をマークしたが、世界記録とは5分36秒という大差がある。