パリ五輪選考会MGCチケット贈呈式欠席も大迫傑が東京マラソンで日本人3位の2時間6分13秒を出し復帰をアピールできた理由とは?
大迫は今回で9回目のマラソン(練習の一環で出場した19年のホノルルは除く)となるが、前回のニューヨークシティから約4か月という過去最短スパンでの出場で、「割とチャレンジング」だったという。従来の最短スパンは約5か月だっただけに、これまでより準備期間が1か月以上も短かったのだ。
「4か月でどこまで仕上がるのかわからなかったんですけど、タイムは非常に良かったと思います。ただ(順位は)最後の4㎞ですべて決まった感じだったので、そこが対応できなかった。動かしきれなかった部分は、今後準備していけば、しっかり対応できると思うので、今回の落としどころとしては、良い着地だったんじゃないでしょうか」
復帰2レース目での好走に大迫は手応えをつかんでいる様子だった。
日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーも、「日本の復帰第1戦で、MGCも獲得しておらず、本人は緊張していたんだろうと思いますが、大迫君らしい復活の走りをしてくれました。引退してから、モチベーションを持っていくのは大変ですけど、さすが大迫君ですね。次のレースはもっと走るのではないかなという印象を受けました」と高く評価した。
大迫は今大会で「2時間10分00秒以内をマークして日本人3位以内」の条件をクリア。パリ五輪選考会のMGCの出場権を獲得した。
レース後の囲み取材を4分ほどで切り上げた大迫は、MGC出場権のチケット贈呈式を欠席。瀬古リーダーは大迫の不在に首をかしげていたが、今年10月のMGCについては、「出場するかどうかは、一回休んでみて、今度はどんな目標でやるのか、コーチとも相談して判断していきたい」と大迫は煙に巻いた。
今回の東京では25歳の山下と29歳の其田が日本歴代3位の2時間5分51秒、同4位の2時間5分59秒という好タイムをマークした。しかし、世界との差は明らかだ。エチオピア勢3人のスプリント勝負を制したデソ・ゲルミサ(エチオピア)の優勝タイムは2時間5分22秒。ラストの約5㎞で30秒近くも引き離されているのだ。
瀬古リーダーも「山下君と其田君の5分台は一応の成果があったんじゃないかなと思います。ただ外国勢がペースアップしたときにつけなかった。トラックでもしっかり戦えるレベルじゃないとなかなか優勝争いはできません。ふたりとも1分以上は伸びるチャンスはあるが、もう一段上げるには、トラックのスピードも必要になってくる。(一定ペースで)押していくだけでは、近代マラソンで勝つことはできないと思います」と話していた。
なお山下と其田の5000mベストは13分47秒83と13分46秒35。そのスピードではハーフマラソンで60分を悠々と切る海外勢とラスト勝負するのは難しい。若手が台頭しているとはいえ、パリ五輪では、5000mで13分08秒40の日本記録を持つ大迫のようにスピードも兼ね備えている日本代表の登場が望まれる。
「単純にワクワク、ドキドキしたかった」と現役復帰の理由を語っていた大迫。順当なら次のマラソンは今秋になるはずだ。MGCに出場してパリ五輪を狙うのか。それともベルリンなど海外のメジャーレースに参戦するのか。大迫の「ワクワク、ドキドキ」の〝選択〟が非常に気になるところだ。
(文責・酒井政人/スポーツライター)