ヌートバ―の“侍魂”と韓国から消えてしまっていた気迫…3点をリードされた日韓戦が13―4の大差に終わった焦点とは?
WBCの第1ラウンド第2戦の日韓戦が10日、東京ドームで行われ侍ジャパンが逆転で13―4のスコアで大勝した。日本を好守に渡って引っ張ったのは、カージナルスのラーズ・ヌートバー(25)の気迫に満ちたプレーだ。対して韓国からはWBCや北京五輪で日本を苦しめた強烈なライバル心が消えてしまっていたという指摘がある。日本人以上の“侍魂”を体現しているメジャーリーガーが世界一奪回への最高のムードメーカーとなっている。
円陣の声出しから始まった「ヌーーー」劇場
お立ち台に指名されたのはヌートバーだった。大谷翔平の名通訳として有名になった水原一平氏と共にヌートバーが姿を見せると、ドームは「ヌーーーー」の大合唱でヒーローを迎えた。日本人の母を持つヌートバーは勉強中の日本語で叫んだ。
「ニッポンダイスキ!ミンナ。アリガトウ!」
4万人のファンで埋まったドームのボルテージは最高潮。
宿命のライバルである韓国との1次ラウンド第2戦はヌートバーのベンチ前の円陣での声出しから始まった。
「兄弟として家族として残り6試合。昨夜の試合で緊張が解けたので今日は自由に動きましょう」
そう通訳を通じて呼びかけると、次に笑って日本語で吠えた。
「ガンバリマッサ! サーーイコウ!」
関西弁が混じったような日本語は侍ジャパンのメンバーも大受けで一体感が増した。
因縁の日韓戦はまさかの展開になった。3回に先発したパドレスのダルビッシュ有が3失点して先にリードを奪われたのである。しかし、その裏に反撃の狼煙をヌートバーがあげた。西武の源田壮亮、ヤクルトの中村悠平が四球を選び、無死一、二塁となった場面で、打席に立ったヌートバーは、なんと初球にバントを試みた。試合後、栗山監督は、サインだったかどうかについて「それは秘密」と煙に巻いたが、「チームのために」自発的にやった可能性もあった。結果、ファウルになり、ヒッティングに切り替え、カウント2-2から韓国の34歳のベテラン左腕キム・グアンヒョンが投じた外角低めへの“勝負球”スライダ―に手を出さなかった。
2013年のWBCで戦略コーチを務めた新潟アルビレックス監督の橋上秀樹氏は、「この1球の見逃しがキーだった」と指摘した。
かつて“日本キラー”と恐れられた左腕は明らかに表情を曇らせた。
フルカウントとなり、否応なしに内側に入れてきたスライダーをヌートバーは芯で捉えタイムリーがセンター前へ抜けていく。一塁ベース上で雄叫びをあげてのガッツポーズ。ムードメーカーの一打が侍打線に火をつけた。ソフトバンクの近藤健介がセンターオーバーのタイムリー二塁打で続き、1点差に迫り、エンゼルスの大谷翔平は、申告敬遠で歩かされたが、一死満塁でレッドソックスの吉田正尚が逆転の2点タイムリー。4-3とゲームをひっくり返した。
橋上氏は「ヌートバーの特徴は、選球眼がいいこと。ミート中心なので打撃フォームの上下動が少なく、頭の位置、すなわち目の位置がぶれないから、ボールの見極めやコンタクトの正確性につながっている」と分析した。
昨季のメジャーでの出塁率.340の数字はダテではない。
ヌートバー劇場はこれで終わりではなかった。
5回だ。2番手の横浜DeNAの今永昇太が一死一塁からパドレスでプレーするキム・ハソンにセンターとショートの間の“魔の地帯”にふらっと上がる打球を打たれた。誰もが落ちると、あきらめたとき、ヌートバーが手を伸ばしてダイビングしてきた。グラブの網部分でボールを確保。超ファインプレーでアウトにしたのである。続くイ・ジョンフにレフト線へ二塁打を打たれたから、もし、これがヒットになっていれば、再び同点、あるいは逆転されているところだった。