なぜチェコのアマ他職業兼任集団は年俸総額150億円超えの侍ジャパンを相手にドームに“爽やかな風”を吹かせることができたのか?
佐々木朗希「真っ直ぐを簡単に打たれた。チェコは凄い打線」
「えーー?」「嘘?」
東京ドームに驚きの声とチェコ応援団の指笛と拍手が交錯した。
1回二死走者無しから“完全試合男”佐々木がインローに投じた163キロのストレートを3番のマレク・フルプ(24)が痛打。レフト線に弾き返す見事な二塁打にしたのだ。
チェコは、国内にプロリーグは存在せず、ほとんどの選手が他に仕事を持つ兼業プレーヤー。もちろん現役のメジャーリーガーはいないため“野球後進国”とみなされていた。このフルプは、米国のノースグリーンビル大学でプレーしている学生で、ここまで大学で通算29本塁打を放っていて、身長193センチ、体重103キロの立派な体格から“チェコのアーロン・ジャッジ”とも呼ばれている選手だった。
その驚きの声は悲鳴に変わる。続く4番のマルティン・チェルベンカ(30)をショートゴロに打ち取ったが、韓国戦で右手小指に怪我を負った西武の源田壮亮(30)に代わって「8番・遊撃」でスタメン出場していた阪神の中野拓夢(26)が一塁へ悪送球。一塁の西武の山川穂高(31)が止めることができずファウルグラウンドへボールが転がる間に1点を失ってしまったのである。このチェルベンカは、2009年から米マイナーリーグで10年間プレー。通算617試合に出場し、2021年にはメッツ傘下で7本塁打をマーク、昨季のチェコの国内リーグで本塁打、打点の2冠王。初球の160キロ級の直球を簡単にバットに当てたのも当然かもしれない。
チェコは3回にも一死から2番の左打者、エリック・ソガード(36)が佐々木の161キロのストレートを捉えて一、二塁間を綺麗に破った。
彼は唯一のメジャー経験者。2021年の途中までカブスでプレーし、メジャー通算815試合に出場し、打率.246、551安打、187打点の成績を残している。米国生まれの米国育ちだが、母がチェコ出身で昨年2月に市民権を得て今回WBC代表に選出された。佐々木は、8三振を奪い、ほとんどの打者を圧倒したにもかかわらず、65球の球数制限で4回を投げきれずにマウンドを降りることになり「真っ直ぐも簡単に打たれましたし、凄い打線だった」と、チェコ打線に敬意を払った。
東京ドームの驚きの声は日本の1回の攻撃の際にもあがった。カージナルスのラーズ・ヌートバー(25)と、ソフトバンクの近藤健介(29)の絶好調の1、2番コンビが、最速は127キロしか出ない超軟投派の先発右腕サトリアの110キロ台のチェンジアップにきりきり舞い。連続三振したのだ。そして、3番の大谷も大きな空振りをした後に、その“魔球”を引っかけて一塁ゴロに倒れた。
日本は2回に一死満塁の逆転機を作ったが、中野とソフトバンクの甲斐拓也(30)が凡退。3回には、一死二塁の同点機に大谷が低めのワンバウンドになりそうなチェンジアップを振って、まさかのスイングアウト。苦笑いで首を振りながらベンチへ下がった。