なぜWBC準決勝の米国対キューバは世界の注目を集めているのか?
日本時間の今日20日に米国マイアミで行われるWBC準決勝の米国対キューバが注目を集めている。そこには、国交断絶の対立、緩和の歴史を繰り返してきた両国の政治的な背景がある。今回キューバは初めて亡命したメジャーリーガ―の代表招集を求め、メジャー通算82本塁打で5年総額7000万ドル(約92億円)でホワイトソックスと契約しているジョアン・モンカダ(27)らが参加しているが、拒否した選手も少なくなく、キューバ政府に反対するデモが球場周辺で行われる可能性もあり、緊迫した雰囲気の中、両チームが激突する。
高まる緊迫感
試合が行われるマイアミは、リトル・ハバナと呼ばれるほど、キューバからの亡命者が多い街。敏腕記者のボブ・ナイチンゲール氏が執筆したUSAトゥデイ紙の記事によると「ローンデポ・パークの周辺は、抗議活動や厳しいセキュリティーとともにWBCで史上最も二極化した試合になるかもしれない。キューバが豪州に勝って準決勝進出を決めて以来、マイアミのキューバコミュニティーでは緊迫感、腹立たしさ、怒りが高まってきている」という。
今大会では初めてキューバ政府が亡命したメジャーリーガーの代表入りを認め招集をかけた。ホワイトソックスのモンカダや、3年連続二桁本塁打を放ち外野でゴールドグラブ賞を獲得したルイス・ロベルト、かつてアスレチックス、レッドソックス、メッツなどで活躍したヨエニス・セスペデスが代表入りしたが、一方で前ヤンキースの世界最速投手のアロルディス・チャップマンや、2019年の新人王で2年連続30本塁打のアストロズのヨルダン・アルバレス、ブレーブスのクローザーのライセル・イグレシアスらの大物が次々と何かと理由をつけて代表入りを拒否。レイズのランディ・アロザレーナがメキシコ代表で出場している。
同紙は、「キューバ系米国人の間にある複雑な感情は、今回の(メジャーリーガー)選手たちにも類似している」と表現した。
背景にあるのが米国とキューバの政治的な問題だ。オバマ政権下の2015年7月1日に両国は54年ぶりに国交を正常させ、2016年にはレイズがハバナでキューバ代表との親善試合も行った。キューバ選手が亡命せずともメジャーでプレーできる可能性も検討されていた。だが、2017年にトランプ氏が大統領に就任すると、キューバ政策を180度転換して再び両国の関係が悪化した。その中でバイデン政権が誕生。再び緩和政策を打ち出している中での今回のWBC開催となり、2006年のWBCの準優勝を最後に国技でもある野球の代表チームの国際大会での成績が思わしくないことも手伝い、キューバ政府が亡命選手の代表入りを認めたものだが、キューバ政府に対する不満や怒りが収まらない選手がほとんどだった。
マイアミ北西になるハイアリア市の共和党市長であるエステバン・ボボ氏が、ニューヨークタイムズ紙の取材に対して「キューバ代表がここにいることは、キューバの亡命者コミュニティ全体に対して最大の無礼だ」とコメントするなどの、複雑な政治的背景がある中で、米国対キューバがWBCで実現することになったのである。