• HOME
  • 記事
  • 野球
  • なぜWBCで劇的ドラマが生まれたのか…ブレない栗山采配と大谷の「初球打ち」そしてマイアミ人工芝を生かす吉田のバックホーム
1点を9回無死一、二塁から試合を決めたのは不振のヤクルト村上宗隆だった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)
1点を9回無死一、二塁から試合を決めたのは不振のヤクルト村上宗隆だった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

なぜWBCで劇的ドラマが生まれたのか…ブレない栗山采配と大谷の「初球打ち」そしてマイアミ人工芝を生かす吉田のバックホーム

 WBCの準決勝の日本対メキシコが日本時間21日、米国マイアミのローンデポ・パークで行われ、日本が6-5で逆転サヨナラ勝利した。1点を追う9回に先頭のエンゼルスの大谷翔平(28)が二塁打で出塁、7回に起死回生の同点3ランを放っていたレッドソックスの吉田正尚(29)が四球でつなぎ、不振に苦しんでいたヤクルトの村上宗隆(23)が左中間フェンスを直撃する逆転サヨナラ二塁打を放ち勝負を決めた。なぜ劇的ドラマが生まれたのか。日本時間22日の決勝戦の相手は米国。日本は先発に横浜DeNAの今永昇太(29)を立てる。

 開幕戦のヌートバーから始まった初球打ちのトレンド

 

 敗戦を受け入れる選手は誰一人いなかった。
 1点を追う9回。メキシコはマウンドに2年連続14セーブをマークしてる“守護神”カージナルスのガイエゴスを送ってきた。先頭打者の大谷は「フォアボールでいいと思って、甘いコースだけを打ちたいなと。必ず塁に出るというのは自分自身で決めていた」という。出塁にこだわったのは、「ムネ(村上)は人一倍、バットを振っていた。吉田さんもそう。後ろの2人。僕が塁に出れば必ず1点取れると思っていた」との信頼感である。
 初球だった。右中間を真っ二つに割る二塁打。一塁を回るときにヘルメットを投げ飛ばした大谷はべ―ス上で雄叫びを挙げて両手を何度も上げてベンチを鼓舞した。
 ベスト4の壁を破れなかった2013年のWBCで戦略コーチを務めた現在新潟アルビレックス監督の橋上秀樹氏は、この初球打ちこそが、侍ジャパンの強さの秘密だという。
「普通は、あの場面で初球から打てない。それが2021年にア・リーグのMVPを獲得した大谷たる所以だが、開幕の中国戦のラーズ・ヌートバーの初球打ちのヒットからチームに伝播した流れ。国際試合では、どうしても慎重になり、ボールを見過ぎて、追い込まれるという傾向があるが、その常識を打ち破った。球の見極めに関しては、打ちにいって選ぶという選球と、選びにいって選ぶという待球があるが、今大会の日本の各打者は、待球ではなく選球ができているのが特徴だ」
 7回にメキシコの3番手左腕のジョジョ・ロメロ(カージナルス)から起死回生の同点3ランをライトポール際に放った吉田が、まさに選球で四球を選び、村上につなげた。
 橋上氏は、その7回の吉田の3ランも、初球から積極的に振りにいき、3球目に空振りしたチェンジアップがポイントになったという。
「積極的にスイングをかけてチェンジアップのタイミングを見極めた。次の釣り球に吉田は反応しなかった。3割の確率で空振りをさせられた、そのボールを狙っていたと思う。国際舞台では、裏の配球は少ない。メキシコのバッテリーはストレートを見せて、そのチェンジアップで勝負にきた。表の配球。低く落としてきたが、吉田は、それを見事に読み切り、グリップを残しワンハンドでライトポール際まで運んだ。こういう読みにも侍ジャパンで徹底されてるデータ野球の背景が見えた」
 裏配球ではなく表配球を読み、そこにレッドソックスが約118億円を投じた吉田のスキルが重なった。この試合で侍ジャパンが得た四死球は実に8個。橋上氏の指摘する選球が効果的な武器になった。
 栗山監督は、吉田が四球で歩くと代走に俊足の周東佑京(ソフトバンク)を送った。
「よく切り札を残していた。この後のタイブレークを考えると、もう吉田に打席は回ってこないので、サヨナラの走者を替えるのはセオリーではあるが、細やかな采配」と橋上氏。
 吉田は、左手で次打者の村上を指差した。「おまえが決めろ」のメッセージである。

 

関連記事一覧