なぜWBCで劇的ドラマが生まれたのか…ブレない栗山采配と大谷の「初球打ち」そしてマイアミ人工芝を生かす吉田のバックホーム
この試合でも3三振でブレーキとなっていた村上も、また初球から振ってきた。それはファウルとなるが、カウント1-1からの151キロの甘いストレートを引き付けてフルスイング。打球は左中間フェンスを直撃。大谷が同点ホーム、そして代走の俊足の周東が一気にサヨナラのホームに滑り込んだ。もうベンチは空っぽ。村上を全員が手荒く祝福。先発した佐々木朗希がスポーツドリンクをタンクごとぶっかけて、びしょ濡れになった村上は、「いやあもう、何度も三振して、何度も悔しい思いをして、その中でチームメイトが、凄く点を取ってくれて、助けてくれて、最後に打席が回ってきた。最後、僕が決めましたが、チーム一丸となった勝ちかなと思っていますし、その期待に応えられてよかったです」と、ホッとした表情を浮かべた。
一瞬、バントも頭をよぎったそうだが、内野守備・兼走塁作戦担当の城石コーチが「思い切っていけ」と栗山監督の「バントはない」のメッセージを伝言。「腹をくくれた」という。
橋上氏は「大会前からずっと栗山監督が言い続けてきた。選手を信頼するという采配の勝利。村上をイタリア戦から5番には下げたが、使い続けた。8回の源田のバントの場面もそうだった。選手のスキル、気持ちを信頼して頑固なまでに信念を貫いた」と評価した。
2点を追う8回無死一、二塁で骨折した小指をテーピングで固めて先発出場した源田壮亮(西武)にバントのサインを送り、2球続けてバントを試みたがファウルとなった。メキシコはバントの守備隊形を敷いていたが、追い込まれても強行に切り替えずスリーバントを指示。源田が綺麗に成功させ、代打山川穂高(西武)の犠飛につなげたのである。
橋上氏は、「この源田のバントから山川の犠飛で奪った1点と、8回に3点目を阻止したレフトの吉田の守備が9回の逆転サヨナラ劇を生み出す土台になった」と指摘した。
3-3で迎えた8回。4イニング目に突入していた2番手の山本由伸(オリックス)が、一死から、この試合のキーマンである2021年の新人王で、2年連続20本塁打、20盗塁をマークしているトップバッターのランディ・アロザレーナ(レイズ)、2番のアレックス・ベルトゥーゴ(レッドソックス)に連続二塁打を浴びて1点を勝ち越された。さらに元オリックスのジョーイ・メネセス(ナショナルズ)に三遊間を破るヒットを許し、一死一、三塁となったところで栗山監督は、山本から湯浅京己(阪神)にスイッチした。4番のラウディ・テレス(ブリュワーズ)はフォークで三振に斬ってとって二死としたが、続くアイザック・パレデス(レイズ)に三遊間にタイムリーを打たれた。2点目を追加され、テレスの打席で盗塁して二塁にいたメネセスも当然、本塁を狙うが、吉田がワンバウンド送球でアウトにしたのである。送球はそれたが、途中出場の甲斐拓也(ソフトバンク)が最短距離で素早くタッチした。橋上氏は、この吉田の3点目阻止がポイントだったというのである。