「優勝は難しい」と“激辛予言”した球界大御所は侍ジャパンの世界一をどう評価したのか…「本気度で米国を上回った称賛に価する優勝」
今回の代表メンバーで海外FA権を持つ投手は一人もいないが、大谷、ダルビッシュに憧れてメジャー志向を抱く選手が多くを占める。広岡氏が指摘するように来年、海を渡る投手が複数誕生する可能性は高い。
「ダルビッシュで始まり大谷で締めくくったWBCだったな」
広岡氏が言う「始まりのダルビッシュ」とは、パドレスのダルビッシュ有が、2月17日の宮崎合宿初日から参加した姿勢を示す。
「ダルビッシュが、若い選手に色々と教えたことで、彼らに自信を植え付けたと思う。ダルビッシュ自身は、投球フォームもボールも悪いままで調整が進んでいなかったが、彼の役割は大きかった。大谷もチームに溶け込み、投げて打って、一生懸命の全力でプレーする姿を見せて1人でチームを引っ張った。彼らがチームを一丸にしたが、結局のところ大谷のチームだったな」
大谷は投手で2勝1セーブ、防御率1.86、9回と3分の2イニングで11奪三振、打者で打率.435、1本塁打、8打点、出塁率.606をマークしている。
「古い話で恐縮だが、我々の時代に野球の発祥の地であるアメリカの地で、そのアメリカに勝てるなんて思ったことはなかった。時代が動き、日本がマイアミでアメリカに勝ったけれど、この勝利で日本がアメリカの野球を超えたとは言えない。彼らが本気を出してきたら強いですよ。ただ、今までの日本野球の欠点は、アメリカの野球をただ真似しているだけという点だった。それが大谷らアメリカで通用する選手が出てきて、真似をするのではなく日本人の野球ができるようになってきた。そこは大きな進歩かな」
広岡氏は、メジャーに匹敵するレベルの高さを示した投手力に加え、近藤健介(ソフトバンク)、吉田正尚(レッドソックス)に代表される選球眼の良さや、粘り強いバッティングスキルなど、随所に見られた日本らしさを高く評価した。
そして最後に広岡氏は、こう提言した。
「少子化や多様になった価値観などの影響で、野球をする子供たちが減っているなかで、今回のWBC優勝の意義は大きいだろう。大谷らに憧れ、野球を志す少年は増えると思う。ただ野球はボールひとつとっても用具が高価で、子供たちが簡単に始めにくいという問題がある。これを機会にその部分の改善にどう取り組むかをコミッショナーが音頭を取って野球界全体で考えねばならないだろう」
世界一の感動に浸るのもいいが、現実を直視して球界大御所の声に耳を傾ける必要があるかもしれない。
(文責・駒沢悟/スポーツライター)