侍Jの白井ヘッドが明かす知られざるWBC秘話…「野手コーチ全員が大谷翔平のストッパー起用を知らなかった」
白井氏がダルビッシュから大谷のリレーで締める栗山監督の意図に気がついたのは、それまでクローザーを務めてきた大勢(23)がマウンドに上がった7回だったという。
「何となくイメージはしていましたけれども、大勢が登板したときに『やはりそうなんだ』と。監督はストーリーが大事だと常日頃から言っていましたので、8回と9回はあの2人に託す、というストーリーがもう監督のなかでずっとあったんだ、と。今回の侍ジャパンはピッチャーが強い、世界一のピッチャーを中心に勝つんだとキャンプから、というよりも選手選考の時点からずっとコンセプトにすえてきたので、最後はそれを前面に出した形ですね」
【チェコを見習え!】
世界一奪還の目標を成就させた今大会の侍ジャパンを、白井氏は「自主、自立、自走型のチームを目指していた」とあらためて振り返る。
「なので、われわれコーチ陣から選手たちにああしましょう、こうしましょうと何かをサジェスチョンしたのはいっさいなかったですね。最初の段階で伝えたのは『ベストのコンディションを作り、ピークをしっかり合わせてください。それは君たちにしかできないことだから』だけです。そのうえで『誰がレギュラーというのはない。全員がレギュラーなんだ』と。あとは本当に選手に任せきりでした。みなさんが考えるような、ドラマチックな何かをやったというのは本当にゼロで、逆に『そこまで選手に任せるのか』という点に驚かれるかもしれません」
もっとも、大会期間中に一度だけ、白井氏はミーティングの席で檄を飛ばしている。豪州戦へ向けてホテルを出る直前。サインの確認などを終えた後に、日本に対して必死に食らいついてきた、前夜のチェコの戦いぶりがいまの侍ジャパンに必要だと訴えた。
「絶対に1次ラウンドを突破してアメリカへ行かなきゃいけない、という戦いのなかで受け身になっていたときにチェコと戦いました。佐々木朗希から死球を受けた選手が、痛みをこらえて一塁ベースへ走っていくときに、日本のベンチのみんなが拍手を送っていた。もっとアグレッシブに、もっとチャレンジャーとして戦わないとダメだと全員が気づかされて、どんな相手に対しても全力を尽くすリスペクトの思いにスイッチが入った。野球というよりもスポーツの原点を思い出し、チーム全体に火がついた意味でも、最高のタイミングだったと思っています」
ほとんどが他に仕事を持つ兼業選手たちが大好きな野球に全力で、ひたむきにプレーしたWBC初出場のチェコは大会に“爽やかな風”を吹かせ、日本人ファンから惜しみない声援と拍手を浴びた。最終的には日本が10-2で快勝した1次ラウンド第3戦は、14年ぶりに世界の頂点に立った侍ジャパンの道のりのなかで、忘れられないターニングポイントになった。
(文責・藤江直人/スポーツライター)