なぜWBCで侍Jを優勝へ導く大谷翔平の「憧れるのはやめましょう」感動スピーチが生まれたのか…白井氏が明かす知られざる舞台裏
WBCを制した侍ジャパンでヘッドコーチとして栗山英樹監督(61)を支えた白井一幸氏(61)の独占インタビューの第2弾。米国との決勝前に「今日一日だけは憧れるのをやめましょう」とチームを鼓舞し、日米の野球ファンを感動させたエンゼルスの大谷翔平(28)の感動スピーチが生まれた舞台裏を赤裸々に明かした。
一体感を呼んだヌートバーの声出し
今回のWBCではそれぞれの試合前に作られた円陣の中心で、声出し役を託された侍ジャパンの選手たちが発した、チームの士気を高める言葉の数々が大きな反響を呼んだ。
中国との1次ラウンド初戦。大役を務めたのは昨シーズンに令和初、そして史上最年少で三冠王を獲得した東京ヤクルトの村上宗隆(23)だった。
「怪我で出られなかった(鈴木)誠也さんのユニフォームもベンチに飾っているので、チームジャパンとして、世界一を絶対に獲りましょう」
過去に何度も熱戦を演じた韓国との1次ラウンド第2戦では、日系アメリカ人で初めて侍ジャパン入りを果たした、カージナルスのラーズ・ヌートバー(25)が務めた。
「兄弟として、家族として残り6試合、昨日で緊張も解けたので、今日は自由に動き回りましょう」
通訳を介してこう呼びかけたヌートバーは、最後には今大会へ向けて必死に覚えてきた日本語を披露。チームメイトたちから喝采を浴びた。
「ガンバリマス! サー、イコウ!」
チェコとの第3戦が行われた3月11日は、12年前に東日本大震災が発生した日だった。声出し役を務めたソフトバンクの甲斐拓也(30)は、こんな言葉でチームを鼓舞した。
「東日本大震災から12年たった今日、たくさんの方が僕たちの野球を見てくれています。当時、嶋基宏さんが言っていました。『誰かのために頑張る人間は強い』と。全力でプレーするなかで失敗も起こるかもしれませんが、全員で助け合って戦い抜きましょう!」
そして、豪州との1次ラウンド最終戦を前にして声出し役を務めたのは、チェコ戦に続いてセカンドの先発を外れた横浜DeNAの牧秀悟(24)だった。
「お疲れさまです。昨日はナイスゲームでした。しかし、やっぱり今日勝たないと意味ないです。いい感じに勝ってきて、今日勝って次に繋げていきましょう!」
元気いっぱいに声を張りあげた牧は、さらにこう続けた。
「まず今日スタートの人たち、存分に暴れてきてください。後から行く人たち、もう準備できています。いつでも大丈夫です。見てください、隣。こんな最高のメンバーでやるの、あと4試合しかないです。行きましょう。今日ぜったい勝ちますよ。さあ、行こう!」
牧の言葉には、栗山監督が2月の宮崎キャンプから代表選手たちに伝えてきたイズムが反映されている。ヘッドコーチとして指揮官を支えた白井氏は、自主、自立、自走型のチームを目指していくうえで、首脳陣から選手たちへ「ああしましょう、こうしましょうと何かをサジェスチョンしたことはいっさいなかったですね」と振り返る。
「最初の段階で伝えたのは『ベストのコンディションを作り、ピークをしっかり合わせてください。それは君たちにしかできないことだから』だけです。そのうえで『誰がレギュラーというのはない。全員がレギュラーなんだ』と。あとは本当に選手に任せきりでした」
全員が主役であるチームだからこそ、先発ではない牧にも大役が回ってきた。その声出し役は大会前の強化試合から1次ラウンドを含めて、外野守備・走塁担当の清水雅治コーチ(58)が指名していた。