なぜWBCで侍Jを優勝へ導く大谷翔平の「憧れるのはやめましょう」感動スピーチが生まれたのか…白井氏が明かす知られざる舞台裏
負ければ終わりのイタリアとの準々決勝前も然り。清水コーチから「たっちゃん、お願いします」と指名されたヌートバーが2度目の大役を務めた。ちなみに、ミドルネームの「タツジ」から「たっちゃん」という愛称をつけたのも、背中に「たっちゃん」と記されたそろいのTシャツを作ってヌートバーの合流を歓迎したのも、清水コーチの発案だったという。
韓国戦前の声出しはヌートバーをより早くチームに馴染ませるための指名。そして、イタリア戦前の2度目の指名は、明るいキャラクターと攻守両面におけるがむしゃらなプレーを介して、ヌートバーが瞬く間に欠かせない存在となったことを物語っている。
そのヌートバーはメキシコ戦前にこんな言葉で盛り上げている。
「家族としてあと3試合残っています。今日の試合が僕たちをマイアミに連れていきます。かっこよく自分のプレーをして、勝って飛行機でパーティーしましょう!」
一連の声出しは、野球日本代表侍ジャパンの公式ツイッター(@samuraijapan_pr)へ投稿された動画などを介して、いつしかファンが魅せられる場面になった。その試合前の“儀式”に、時間の経過とともにポジティブな変化が生じていったと白井氏は明かす。
「だんだんと選手のみんなで(声出し役を)決めていった、みたいな感じですね。次は誰々じゃないか、みたいな声が上がりだして、最後は『この2人だろう』と」
決戦の舞台を米マイアミのローンデポ・パークに移して行われたメキシコとの準決勝。もう声出し役を清水コーチが指名する必要はなかった。チームメイトたちによる万雷の拍手が降り注ぐなかで、たとえるならば自然発生的に円陣の中心に迎え入れられたのはメジャー組で、ただ一人、宮崎キャンプ初日から参加してきたパドレスのダルビッシュ有(36)だった。
今回のWBCで栗山監督はキャプテンを指名していない。それでも進んで精神的な支柱を担い、若いピッチャーたちと積極的にコミュニケーションを取り、宮崎やマイアミで決起集会も開催してきたダルビッシュは約30秒間にわたって訴えかけた。
「宮崎から始まって約1カ月、ファンの方々、監督、コーチ、スタッフ、この選手たちで作り上げてきた侍ジャパン、控えめに言ってチームワークも実力も今大会ナンバーワンだと思います。このチームでできるのはあと少しで、今日が最後になるのはもったいないので、みんなで全力プレーをしてメキシコ代表を倒して明日に繋げましょう」
静かな口調ながら、それでいて熱い思いがひしひしと伝わってくる言葉が仲間たちの胸を打ったのは言うまでもない。そして、メキシコに劇的な逆転サヨナラ勝ちを収めた余韻を残したなかで迎えたアメリカとの決勝前。満を持して大谷に“大トリ”が託された。
日米の野球ファンを感動させた、あの名スピーチだ。