なぜWBCで侍Jを優勝へ導く大谷翔平の「憧れるのはやめましょう」感動スピーチが生まれたのか…白井氏が明かす知られざる舞台裏
「僕からは一個だけ。憧れるのをやめましょう」
晴れやかな笑顔を浮かべながら第一声を切り出した大谷は、唐突に聞こえた「憧れるのをやめましょう」に込めた覚悟と決意をチームメイトたちと共有した。
「ファーストにゴールドシュミットがいたりとか、センターを見ればマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたりとか、野球をやっていたら誰しも聞いたことがあるような選手たちがいると思うんですけど、やっぱり憧れてしまっては超えられないので。僕らは今日(アメリカを)超えるために、トップになるために来たので。今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう。さあ、行こう!」
大谷の言葉は「名言すぎる」とファンを感動させた。そして、3番・DHから異例の救援登板を果たした9回二死無走者で、エンゼルスの同僚マイク・トラウト(31)をこん身のスライダーで空振り三振に仕留め、胴上げ投手になった瞬間に鮮やかに具現化させた。
さらに米メディアも大谷の言葉を英訳して紹介。アメリカ代表が大会連覇を逃した悔しさを超越する形で、ファンから「この男は野球の神様だ」や「史上で最も礼儀正しいスピーチ」といった賛辞が寄せられた。ドラマを超える至高の大団円を、白井氏はこう振り返る。
「僕たちが感じたのは、野球とはこんなにも元気や勇気、感動を人々に与えられるんだ、ということでした。スポーツが持つ力を強く感じながら、そのなかでも特に野球に携わっていられる幸せや、日本を背負って戦える喜びというものを日に日に感じていた。それはチームの全員が感じていたことであり、そういうところも一体感を生み出していったと思います」
一体感の源泉を担ったのが、事前予告なしの即興で託されたにもかかわらず、チームメイトたちの魂を震わせたスピーチの数々だった。それは世界一奪還という志を全員で共有しながら、侍ジャパンが一戦ごとにチーム力を高めていった軌跡と一致している。
(文責・藤江直人/スポーツライター)