広島の単独首位は春の珍事か本物か
プロ野球のセ・リーグの4月戦線が想定外の展開となっている。3年連続Bクラスで下馬評の低かった広島が8勝5敗で単独首位に立っているのだ。V3を狙うヤクルトに3連勝。コーチ経験がないまま監督に就任した新井貴浩氏(46)がポジティブな指揮でチームを引っ張っている。カープの勢いは春の珍事か、あるいは本物か。戦いぶりを検証してみた。
「こんな監督見たことがない」
「こんな監督見たことがない」
SNSで話題となったのが15日のヤクルト戦で新井監督のアクションだ。1点を追う9回に守護神の田口に2アウトを取られた。あと1人の場面から代打の堂林が四球を選び、続く秋山が逆転サヨナラ本塁打をレフトスタンドに叩き込んだ。その瞬間、新井監督は、誰よりも早くベンチを飛び出して飛び跳ねるようにしてホームで出迎えた。
報道によると「ちょっと覚えてないんだけど」と振り返るほど興奮していたそうだ。
監督というよりもチームリーダー。新井監督は、常にベンチの一番前で、笑顔で声を出し、喜怒哀楽を剥きだしにしている。そして決してネガティブな発言をしない。記者に個人名を出して寸評を聞かれると「凄いよね」が口グセだ。
「思い切っていけ」と選手の背中を叩いて打席へ送り出す。その劇的なサヨナラの勢いのまま16日のヤクルト戦では5点差を逆転した。
この試合も象徴的だった。開幕4連敗で迎えた第5戦からヒットのなかった小園に代わりスタメンに抜擢されはじめた田中が、6回二死から同点に追いつく満塁本塁打を放ったのだ。
田中は、昨季は41試合の出場にとどまり、打率は.200と低迷。内野補強を目論む他球団がトレードリストから外すほどで、現在も、打率は1割台しかないが、今季にかける気持ちを新井監督は買った。6回は、8番打者の田中に代打があってもおかしくなかった場面だが、新井監督は、そのまま打たせた。その我慢は信頼の印だ。
新井監督は、昨秋キャンプでの合流初日に選手にこんな所信表明をしている。
「俺は絶対に好き嫌いで選手を起用しない」
そして「こんなところで、俺が投げるのか、俺が代打なのか、ということが出てくるかもしれないが、俺はみんなが思っている以上にみんなに期待している」と言い、「俺たちは家族だ。みんなで切磋琢磨してみんなで競争してみんなで強くなろう」と呼びかけた。
開幕してからも、「競争」「調子のいい選手を使う」というコメントがいつも口をつき、その方針をぶれずに守るのでチームのモチベーションが高まっている。田中に刺激されたのか。5点差をひっくり返したヤクルト戦で7回の勝ち越し舞台を作ったのは、代打で出た小園の三塁打。チーム内競争が機能している。
広島でコーチ経験があり、巨人と共にカープへの思い入れが強い、元西武、ヤクルト監督の広岡達朗氏も新井監督の起用法を高く評価している。