なぜ「天皇賞・春」で1番人気タイトルホルダーに競走中止のアクデントが起きたのか…淀の“魔の下り坂”で繰り返された悲劇

　淀の第3コーナーの坂は“魔の下り坂”として知られる。
　新装された京都競馬場は、主にスタンドやパドックなどが改修され、コースレイアウトは、これまでとほぼ同じ。2度の坂越えと3200メートルという過酷なコース。名物の3コーナーの坂も当然、残っており、外回りだと高低差は4・3メートル（内回りは3・1メートル）にも及ぶ難所だ。馬によっては坂の下りを利してスピードに乗れるタイプもいるが、坂の下りを苦手にする馬も少なくない。調教師の中には、管理馬をなるべく負担のかかる京都で走らせないようにしている人もいたほど。もちろん、それもレースの一部であり、競馬を面白くさせている要因ではあるのだが、過去に幾度となく悲劇も起こってきた。　
　例えば、1995年、京都競馬場で行われた宝塚記念でのライスシャワー。ミホノブルボンの3冠を、メジロマックイーンの盾3連覇を阻止した名ステイヤーは3コーナーすぎの坂の下りで、得意のロングスパートに出たが、直後に前のめりに崩れ、いったんは身体を起こした後に再び転倒。その際に左第一指関節開放脱臼、粉砕骨折し、天国に旅立った。
　加えて、この日の馬場は「やや重」まで回復していたが、体力を奪うタフなコンディションだった。実際、タイトルホルダーを含めた3頭にアクシデントが起こる壮絶なレースになった。
　2019年、20年のフィエールマン以来となる春の盾連覇を狙ったタイトルホルダーは好スタートを決め、押して先頭を奪ったが、1周目の3コーナーで外からアフリカンゴールドが強引にハナを主張したため、2番手に控えた。最初の600メートルが35秒0。特に200メートルから400メートルにかけ10秒8と高速ラップを刻んでいるように、かなりのスピードに乗った状態で最初の坂の上り、下りをしたため、心肺機能や脚元に大きな負担がかかったとも考えられる。
　案の定、競りかけたアフリカンゴールドは無理がたたったのか、心房細動を発症し、早々と1周目のゴール板すぎで後退し競走中止に。トーセンカンビーナも2周目の途中で失速し、何とか大差遅れで入線こそしたものの、左前浅屈腱不全断裂と診断された。
　勝ったジャスティンパレスは京都未経験ながら、2着のディープボンド、3着シルヴァーソニックは共に京都の経験が豊富な淀巧者。淀の過酷なコースとタイトルホルダーのアクシデントは決して無縁ではなかったのかもしれない。
　タイトルホルダーにとっては好事魔多しというしかない。3歳時には菊花賞を制し、昨年は天皇賞・春を7馬身差で圧勝。さらに宝塚記念もコースレコードで勝ち、GⅠ3勝と名前通りに重みのあるタイトルを総なめにしてきた。今年も前哨戦の日経賞も圧勝し、連覇に向けて死角なしと思われていただけに、まさかのアクシデントは無念だろう。
　いずれにしろ、跛行には程度があるとはいえ、競走能力を喪失するような大きなアクシデントではなかったことは不幸中の幸いだ。いまはタイトルホルダーの脚元の傷が癒え、再起してくれることを静かに祈るしかない。