「もう一度世界王者を目指すだなんて嘘はつけない」ロマと戦った中谷正義が引退表明…今後は後進育成のアマジム経営目指す
プロボクシングの元OPBF東洋太平洋ライト級王者の中谷正義(34、帝拳)が29日、自身の公式ツイッターで現役引退を表明した。中谷は、選手層が厚い伝統のライト級で、日本人ボクサーが戦えることを証明し、元世界3階級制覇のワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)とのビッグマッチを実現するなどしたが、世界王座には手が届かなかった。プロ戦績は23戦20勝(14KO)3敗。今後は、ボクシング界の底辺拡大のため、アマチュアジムの経営などを目指す考えだ。
「充実した時間を生きる事が出来ました」
伝統のライト級での世界への道を切り拓いた。
その不世出のボクサーの引退発表はSNSだった。
「前回の試合を最後にボクシングを引退する事にしました。今までたくさんの応援ありがとうございました。帝拳ジムではとても素晴らしい時間を過ごす事ができ、充実した時間を生きる事が出来ました。長い間、皆さま本当にありがとうございました」
そうツイートした。
中谷から「引退の気持ちは変わらない」と告げられたのは、4月のとあるパーティだった。
「ボクシングは好きだしできれば続けたい。でも、応援してくれるファンや後援者の方々を前に“世界を目指します”とは、言えない自分がいるんです。それって嘘になるじゃないですか。失礼じゃないですか。吉野に負け、その吉野がシャクール・スティーブンソンに通用しなかった。自分の力では、世界は無理だとわかっています。なのに世界を目指すと嘘をついてまでボクシングを続けられない。それは自分の生き方に反するんです」
34歳。まだ現役を続けられる年齢だが、真っすぐで男気のある中谷らしい決断だと思った。
大阪出身の中谷は“名門”興国高から近大に進み2011年にプロデビュー。元4階級制覇王者の井岡一翔(志成)は興国高の同級生で同じ井岡ジムに所属していた。3年後に、OPBF東洋太平洋ライト級王座を獲得すると、11度も防衛。1m82の長身を生かしたアウトボクシングと、チャンスには、魂をむき出しにして向かっていくファイトで、このクラスで国内、アジアで敵なしとなった。
ようやく2019年7月に米国でIBF世界ライト級挑戦者決定戦として、のちにロマチェンコを破り、ライト級の3団体統一王者となるテオフィモ・ロペス(米国)と対戦し、惜しくも判定で敗れ、一度は引退を発表した。ファイトマネーなどへの不満もあったに違いないが、一切、愚痴はこぼさなかった。中谷はそういう男だった。
だが、後援者が間に入り、元WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太(当時帝拳)が、「今がボクサーとして上り坂やないか。パチンコで言えばちょうど確変に入っているのに、それを途中で止めるみたいなもの。もったいな過ぎる」と、現役復帰を説得。
帝拳ジムに移籍して、現役復帰を果たし、その世界的なプロモート力をバックに再び世界の舞台へ挑むことになった。
いきなり2020年12月の移籍初戦で米国においてWBOインターコンチネンタルライト級王座をかけて元WBOラテンアメリカライト級王者のフェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)と対戦。1回と4回に計2度のダウンを奪われる大劣勢から、持ち前の根性を見せて、9回に逆転TKO勝ちを収めて本場での評価が急上昇。ついに翌年6月に、世界的ビッグネームのロマチェンコとの対戦が実現した。
世界のトップとの実力差を見せつけられ9回TKO負けを喫したが、WBO世界スーパーウェルター級王座決定戦で、元4階級制覇王者のミゲール・コット(プエルトリコ)と対戦した亀海喜寛(当時帝拳)に続く、日本のボクシング史に残る歴史的な試合となった。