なぜ井岡一翔は大ブーイングを浴びた約3キロ体重超過の剥奪WBA王者にドーピング問題試練も乗り越え勝利できたのか…フランコ「彼の方が精神的にタフだった」
5ラウンドには、その返しの左フックがフランコの右目上を切り裂いた。動きが止まるのを確認すると一気にラッシュをかけた。9ラウンドには、ノーガードでフランコのパンチをすべて外し、舌を出して笑う余裕のパフォーマンスも。フランコの手数を支持して2ポイント差にしたジャッジがいたのは意外だったが、ほぼ全ラウンドを井岡が支配していた。。
井岡は、「ただ目の前の相手を殴る。簡単すぎる表現だけど、ラウンド数などを考えず、目の前に立っている相手を叩きのめす。直感で毎ラウンド戦った」と振り返った。その心境を「武士に例えれば、抜いた刀を振り抜かないと自分がやられるという危機感」と表現した。
ボディ攻撃も執拗に繰り出した。右のボディストレート、左のボディアッパーと、両サイドを打ち分け、正面からもミゾオチを狙い、3方向から滅多打ちした。だが、その効果は終盤に現れずKO決着とはならなかった。
懸念された体重差のハンデによるパンチは「1を止める」作戦で封じこめたが、もう一つのハンデがあったのである。
佐々木修平トレーナーが言う。
「耐久力は増した気がする。前半からあれだけ徹底してボディが決まっていたし、減量できなかったくらいだから、どこかでギブアップするのでは?と思っていたが、最後まで耐え抜いたのは、体重差の影響かもしれません」
実は、井岡にも、対抗手段があった。昨年大晦日のリカバリー数値よりも500グラム増えていたのである。佐々木トレーナーが「アメリカで新しいフィジカル&ストレングストレーニングを導入した影響で、パワーがつき、体が大きくなった。体重差を埋めるために増やしたわけではなく、自分をベストを持っていく中で自然とそうなった」と説明した。
結果的に、この500グラムが、フランコとの体重差ハンデを少しでも解消することに役立った。
試合後、右目上に大きなガーゼを貼って会見上に現れたフランコは、「井岡の方が自分よりシャープで強かった。彼が自分より精神的にタフだった」と新王者を称え、うなだれた。
異常なまでの汗をかくなど、体調不良は明らかだったが、「体調はどこも悪くなかった」と言い訳はしなかった。
だが、前日会見で、ドーピング問題が明らかになったことが「試合がないかも」との精神ショックを受けたことが体重超過の原因だと責任転嫁していたガルシアトレーナーは、「フランコの個人的な問題で試合をキャンセルして米国に帰る一歩手前までいった。何が問題だったかを今はまだ言うつもりはない」と付け加えた。
激動の1週間だった。
昨年大晦日のフランコとの第1戦のドーピング検査で大麻成分が検出され、JBCは、21日の深夜に突然、その事実を発表した。同時に数値が世界アンチドーピング機構(WADA)が定める基準値を越えなかったため、JBCルール第97条のドーピング違反とはならず、試合は実施されることも発表されたが、水面下では、「中止にすべきだ」との動きがありドタバタが続いた。
「(試合をやれるかどうか)二転、三転した」
井岡も、ガルシアトレーナーの発言を裏づけるような舞台裏を明かす。
だが、彼は何ひとつ動じることはなかった。
志成ジムの責任者が立ち合いの上、B検体の検査が行われたのは17日で、その時点で、井岡は、すでに結果を知らされていたが、動揺はなかった。
「自分が自分に対して後ろめたいことを1ミリもしていない。だから動じない。どう過ごしているかを自分が一番わかっている。応援してくれる人を裏切ったことはない」
潔白を訴える井岡の信念がそうさせた。