なぜ“替え玉ボクサー事件”が起きたのか…仲介人に騙された平仲会長の“脇の甘さ”と飲食代3万円を請求していたJBCの杜撰な馴れ合い体質
日本ボクシングコミッション(JBC)の実行委員会が30日、都内で行われ、5月14日に北海道・札幌で開催された興行で起きた“替え玉ボクサー事件”のほぼ全貌が判明、緊急記者会見が開かれ、興行を主催した元WBA世界スーパーライト級王者で沖縄の平仲ボクシングスクールジムの平仲信明会長とJBCの萩原実理事長が謝罪した。
同ジムのセコンドライセンスを持つボビー・オロゴン氏が選手手配を依頼していた日本在住のナイジェリア人の仲介人が仕組んだとみられ、JBCのパスポートの確認ミスなどが重なり、“替え玉ボクサー”の出場を見過ごした。今後JBCの倫理委員会を経て、平仲会長、ボビー氏らのライセンス停止処分が行われ、またJBCも理事長、本部事務局長、担当した試合管理部長らに処分が下される方向だ。
パスポートをチェックしないまま試合を認める
平仲会長が深々と頭を下げた。
「報道されていることは事実。コミッション、協会、関係者の皆さまにご迷惑をおかけてして申し訳ありません」
22年ぶりに起きた替え玉ボクサー事件の全貌がほぼ判明した。
平仲会長は、5月14日に北海道・札幌で行う興行に、当初、タイ、フィリピン、台湾などから、ボクサーを招聘する考えでいたが、ナイジェリアからボクサーを呼べる話が、ボビー・オロゴン氏、経由で舞い込んだため、日本フェザー級1位のリドワン・オイコラ(26、平仲BS)の相手として、権威のある記録サイト「ボックスレック」にも戦績が残っているサミュエル・モセス(37)、ボビー氏の息子のジェイジェイ・オロゴン(23、同)の相手としてカジーム・ラワル(34)の2人を呼ぶことが決定した。トレーナーも含めた5人の在留認定書、ビザなどを申請したが、なんらかの理由でビザが下りなかったようで来日できなくなり、ボビー氏が手配を委託していたナイジェリアのスポーツ庁とも仕事をしている仲介人が、日本の越谷近辺に在住の“ボクシング素人”のナイジェリア人に声をかけて“替え玉”に仕立てたとみられる。
5人が来日するはずが、北海道に来たのは3人だけ。東京ー札幌間の航空券が取れず、2人は東京に残ったという。
「羽田、成田空港に迎えにいっていれば、入国していないことが、わかっていたはずが、それをしなかった私のミス」と平仲会長。脇が甘かった。
現地に出向いていたJBCの試合管理部長は、前日計量時にパスポートや各種の必要書類を確認することになっているため、平仲会長に提出を求めた。
平仲会長は、ボビー氏と2選手にパスポートを出すように伝えたが、「東京に残った2人にパスポートなどの荷物を預けているので持ってきてないと言うんです。写真を撮って送るように言ったのですが、送ってこなかった」と平仲会長。代わりに在留認定書を出したが、これはビザを取得する際に必要な書類に過ぎず、本人確認にもならないものだったが、JBCの担当職員の認識不足でパスポートがなければ出場は認めないという厳格な判断を下さなかった。
ナイジェリアのコミッションとも連絡を取り合って確認した5人のうち2人がこなかったのだから、この時点で警戒心を強めるべきだったが、JBCのチェック機能は働かなかった。
平仲会長もボビー氏もまんまと騙された。
1人は予備計量で、300グラムオーバーしていたが、ロープを飛び、シャドーをしてリミットをクリア。計量のフェイスオフでは、モセスになりすました別人が、オイコラの胸をつつき、あわや乱闘騒ぎになるハプニングも起きた。平仲会長は、「やる気満々だし疑う余地はなかった」。
同じナイジェリア人のオイコラが気がつかなかったのかも疑問だが、「オイコラは、こんな選手見たこともないし知らないと言っていた。試合が終わるまで喧嘩になっても困るので、接触しないように別々に行動させた」と平仲会長は、オイコラも、別人だとは気がついていなかったと主張した。
試合は、まずミドル級4回戦でジェイジェイ・オロゴンが、ラワルの別人と対戦。“空気パンチ”で1回3分9秒にKO勝ちした。そこで別人だと気づいてもよさそうだったが、平仲会長は「バタバタしていてオイコラにセコンドにつく準備もあってわからなかった」という。