「人生でもスポーツでもスーパーヒーローはいない」イニエスタは神戸のラストマッチで何を伝えたかったのか?
神戸にとっては、勝ち点2ポイントを失った90分間だったと言っていい。吉田監督も「勝ち点3を取らなきゃいけなかった」と試合を総括している。
「結果的には残念でしたけれども、そのなかで選手たちはハードワークしてくれましたし、勝ちたいという姿勢を最後まで見せてくれた。(イニエスタ起用の関しては)もちろん自分にしかわかりえない部分も、そして彼にしかわからない辛さもあったと思う」
結果論になるが、イニエスタを送り出すのであれば結果を出してきた堅守速攻スタイルで臨み、リードを奪った上で後半途中から起用するべきだったのではないか。
もちろん青写真通りに試合が進んだ保証はない。それでもイニエスタ自身が違和感を覚えていたと明かしたように、まずは勝利が求められる公式戦において、特に攻撃面でチグハグぶりが目立った57分間は神戸、イニエスタ双方にとってベストだったのだろうか。
札幌戦に引き続いて行われた華やかな退団セレモニー。家族とともにピッチに姿を現したイニエスタは、何度も頬に涙を伝わせながらこんな言葉を残している。
「ファン・サポーターのみなさんにはこれまで通りチームを支えてほしい。チームは素晴らしいシーズンを送っていますが、後半戦はみなさんの力が必要になります。みなさんと一緒に、自分も離れたところからチームに力を送りたいと思っています」
年齢に関係なく、選手ならば誰でもより長く試合に出たい。交代直後こそアスリートの本能的な一面をのぞかせてしまった感のあるイニエスタだが、5年間にわたって所属してきた神戸へは、ファン・サポーターを含めて「私の人生の一部です」と深い愛を注ぐ。
「お別れを言う日になりましたが、自分は『さようなら』という言葉が好きではありません。今日は『また会いましょう』と言うべきだと思っています。私たち家族はまた日本に戻ってきます。ここは私たちにとって、我が家のようなところだからです」
神戸との絆の強さを前面に打ち出した、万感のスピーチを届けたイニエスタは近日中に離日。まずは母国スペインに戻り、サウジアラビアやカタール、アラブ首長国連邦、アメリカ、そしてアルゼンチンから届いているとされる新天地候補のオファーを吟味する。
(文責・藤江直人/スポーツライター)