“浪花のロッキージュニア”赤井英五郎が“どついたるねんファイト”で81秒TKO勝利できた理由とは?新人王の次戦相手は俳優・伊吹五郎氏の孫
プロボクシングの東日本新人王戦のミドル級予選が1日、後楽園ホールで行われ、“浪花のロッキー”こと俳優の赤井英和氏(63)の長男、英五郎(28、帝拳)が、鈴木輝(26、金田)に怒涛の猛ラッシュを仕掛けて1ラウンド1分21秒にTKO勝利した。世界挑戦経験のある父はリングサイドで見守り「成長と自信を感じる。私より上」と太鼓判を押した。次戦は9月15日の準決勝で俳優の伊吹五郎氏(77)のお孫さんの伊吹遼平(27、三迫)と対戦する。赤井のプロ戦績は4戦2勝(2KO)2敗となった。
「もっと早く止めてくれないと相手が気の毒だった」
まさに“どついたるねん”を体現したファイトだった。
父譲りのファイターの遺伝子にスイッチが入った。
「ワンツー、左フックからの右を打ったときに右目を気にしていたのでいけると思った」
赤井は小さな反応を見逃さない。
怒涛の猛ラッシュ。ロープを背負わせ何十発というパンチを浴びせ続けた。
1448人で埋まった後楽園が湧く。
「相手がタフで倒れなかった。無駄なパンチが多かった。的確に当てて、あんなに数を打てば、倒れておかしくなかったんだけど…途中からボディ打ちに切り替えた」
一方的にパンチを打ち続けたが、決定的な一打はなく、ガードを固めた鈴木も一発逆転のカウンターを狙っていた。赤井は、鉄のようなブロックを崩せないとみるとボディ攻撃に切り替えた。
左のボディアッパーがめりこむ。ガードが下がると、また顔面に連打に次ぐ連打。最後は右のストレートがヒットしたところでレフェリーが止めに入りTKOを宣告した。
理想は「ボディで倒すこと」だという。
「頭だと相手の意思さえあれば立ち上がれる。ボディは相手が降参して倒れる」
“浪花のロッキー”の息子らしい哲学。
リングサイドの最前列では父の英和氏と母の佳子氏が手に汗握っていた。
「もっと早く止めてくれないと相手が気の毒だった」
そして「パンチをたくさん打ったのが勝ちにつながった。下から上、上から下と、上下にふりわけると、もっとパンチが当たるんですけどね」と続けた。
ボクサー時代にWBC世界スーパーライト級王座に挑戦したことがある父らしい小言も出たが、「これまでは大振りばっかりだったけど、細かいパンチを打てように成長した。自信をつけたと思う」と、その進化を認めた。
3度目の新人王への挑戦である。
2年前は1回戦で敗れ、昨年は1回戦は突破したが、9月の準決勝で元K-1ファイターの左右田泰臣(EBISU K.s BOX)に敗れた。この試合が10か月ぶりの再起戦であり、規約によりラストの挑戦となる新人王戦のスタートだった。左右田に負けた1週間後に本田明彦会長の指示で、ミドル級の体格があり「リズムが合い、日本人にない間がある」というカルロス・リナレス・トレーナーと新たにコンビを組んで再出発した。
父の感想を伝えると、「これまでは、なかなかショートを出せる距離までいけたことがなかった。でも、今日は自分を信じていけた。ボクシングはすべてがハートできまる。コーチやスパー相手はパワーを評価してくれるが、自分を信じられなかった。いい経験になった」と、勇気をもって距離をつめて猛ラッシュを仕掛けた試合内容を自己評価した。
「結果として負けたりしているが、毎試合ごとに自分のペースでゆっくり強くなっている」
昨年の11月26日に第一子の愛実(あみ)ちゃんが生まれた。
大好きなファンタジーSF小説「アミ 小さな宇宙人」(エンリケ・バイオス著)の主人公の名前を拝借して命名した。1986年にチリで出版され、世界的ベストセラーになった名作で、日本版は、さくらももこさんが挿絵を描いて注目された。
父の英和氏は、「家族ができたことが強みになった」と、分析したが、赤井は、プロボクサーとしての矜持を口にした。
「ボクシングとそれ(家族)は分ける。生活は変わったが、子供をモチベーションにリングに上がるのは違う。やりたくてやっている仕事。プロとしての意識をもって取り組んでいきたい」
9月の準決勝で対戦する次の相手は、「水戸黄門」が代表作の俳優、伊吹五郎氏の孫、伊吹遼平だ。プロデビュー戦でもあった5月6日の1回戦で小林壮太(シュウ)に2回TKO勝利している。赤井と同じく猛ラッシュで仕留めたもの。2回戦は、不戦勝となったことで赤井とぶつかることになったが、「え?決まっているんですか。棄権したんですか」と赤井は、詳しく知らなかった。
それでも、その1回戦の伊吹の試合は、見たそうで「一発一発パンチがある」との印象を語り、「ディフェンスも強化したので、まともに受けないで、避けて終わるんじゃなく、攻めて攻めてまた熱いバチバチの戦いになる」と、激闘を予告した。
否が応にも注目を集める対戦となるが、赤井は、それを歓迎した。
「プロなんで注目してもらってなんぼ。ありがたい。お客さんに、お金を払って見てもらっているので、皆さんに喜んでもらえればいい」
エンターテイメント性もサービス精神旺盛だった父譲りなのだろう。
父の英和氏は、伊吹氏とは、仕事場で何度か会って面識はあるが、「親しくはない」と、笑わせた後に、「相手は関係なく、自分のやってきた、いいものを出してくれたらいい」とエールを送った。そして「お父さんの遺伝子を息子さんに感じますか?と聞くと、真面目な顔でこう言った。
「私(の現役時代)とはまったくスタイルが違う。細かいパンチもロングも打ち分けができる。私より上をいっている。まだ4回戦だが成長が楽しみ」
まだプロ4戦。力みも目立ち、攻守ともに技術は未熟だが、可能性を感じるファイトを見せてくれたことは確かだ。ちなみに父の英和氏もスーパーライト(当時ジュニアウェルター)級で全日本新人王を獲得している。
(文責・本郷陽一、RONSPO、スポーツタイムズ通信社)