「ちょっと失礼」41秒シャドーで“煙幕”を張ったWBC&WBO王者フルトンに井上尚弥を支える父の真吾トレーナーが3つの万全対策…「王者に劣っているところは何もない」
フルトンは来日前に米メディアのインタビューに応じて井上戦のポイントを「賢く戦うこと」としていた。
「それはポイントアウトのボクシングで勝負するという意味か」と聞くと否定はしなかった。
「ボクシングは第一に頭を使って賢くやらねばならない。ただそれだけでなく(攻撃的なボクシングも)ミックスして戦っていく」
米メディアには「ファンに魅せる試合はいらない」とも答えており、勝ちに徹するものだとみられる。もちろんフィゲロアとは、激闘を演じており、打ち合う場面も作るだろう。
だが、このフルトンの戦術も井上陣営は想定済みだ。
「フルトン次第で、流れや試合内容は変わってくると思うが、ポイントアウトで来ることは想定している。でもどこかで打ち合うでしょう。こっちは圧をかけてダメージを与えて中間距離からペースを取る。まずは1ラウンドに見切ること。そこで(フルトンの動きが)インプットできれば、流れがわかる。あとは尚弥次第になる」
真吾トレーナーの説明によると、この間、井上はパートナーを変えながら、12ラウンドのロングスパーも、ペースを上げて打ち込む短いラウンドのスパーもメリハリをつけて消化してきた。その中で3つの万全のフルトン対策を準備した。
まずリーチ差があり遠い距離で戦うフルトンの懐に飛びこむ戦術を練った。8月30日にWBOアジアパシフィック・スーパーライト級の王座決定戦に出場する井上浩樹を“仮想フルトン”に見立ててスパーを行い「これをやれば絶対に遠くからでも踏み込んで届く」という極秘のテクニックを磨いたという。
またフルトンはクリンチワークが巧みで密着戦も厭わない。ホールドの反則スレスレのテクニックを使ってくる。ダメージブローを浴びると、クリンチで危機を回避するし、打ち逃げのようなポイント優先型のクリンチもある。フィジカルの差を生かした戦術だ。
フルトンは、体格差について「ウエイトというより、戦いになので、そのときに良かった方が勝つ。自信がなければ、ここまでやってこない」と口にしている。
真吾トレーナーは、「そのあたり(クリンチ時の反則)をちゃんと見てもらうようにルールミーティングでアピールしておきたい」と、前日に行われるルールミーティングでレフェリーとフルトンにプレッシャーをかけておくという構想を明かした。
筆者は井上のKO勝利で決着を見ると思うが、フルトンがロングレンジと密着戦をうまくミックスさせて“モンスター”を空回りさせ続けた場合、勝負が判定にもつれこむ可能性もある。
陣営では判定対策も整えた。松本好二トレーナーに“プライベートジャッジ役”を依頼。毎ラウンド、松本トレーナーのジャッジを目安に、ポイントの動向をつかみながら、フルトンに判定をコントロールされないようにマネジメントする考え。
「ポイントがわからないと怖い。セコンドに入っていると冷静に計算できないので、松本さんに客観的に中立の立場で辛めにつけてもらって伝えてもらう。取られていたら出ていくしキープしているなら今のままでいいと指示できる」と真吾トレーナー。
実は4月にWBA世界バンタム級王座を判定で獲得した井上拓真とリボリオ・ソリス(ベネズエラ)の王座決定戦も判定を想定して特別コーチを依頼していたロンドン五輪代表の須佐勝明氏にジャッジ役を依頼し、そのジャッジを羅針盤にして試合を組み立てて見事に判定勝利をつかんでいる。