なぜ井上尚弥はフルトン戦前の公開練習をわずか30秒で切り上げて「一発が当たれば間違いなく終わる」と豪語したのか…1.8キロ増で生まれた確かなる根拠
元世界3階級制覇王者で、自らの実体験をもとに高度なトレーニング知識を持つ八重樫東トレーナーの指導のもとフィジカルを鍛えて得たパワーは、もちろんのこと「過酷な減量の影響で乗らなかった」スピードまで増した。
スーパーバンタム級に上がることで、相手の耐久力は増し、ましてフルトンは、ダウンの経験がない無敗の王者だ。しかし、それらを差し引いても、バンタム級時代に世界を席巻したモンスターのKOパンチは、この階級でも通用するだろう。
情報戦を仕掛けた大橋会長がこう証言した。
「背中の筋肉の付き方が違ってきている。ライトフライ級の頃からスパーでフェザー級の選手を倒していたし、スーパーバンタム級が適正階級だと思っていた。階級を上げれば上げるほどどんどん強くなっていく」
バンタム級時代には、強すぎるがゆえに、相手のレベルを試合前に読めてしまい、モチベーションを保つことに苦労した。
だが、今回は「過去一気合が入っている」という。
心技体が充実している。
スーパーバンタム級への転級の初戦が無敗の2団体王者フルトンへの挑戦という厳しい展開にもかかわらず井上優位の予想の声は多い。ブックメーカーの大手「ウィリアムヒル」は井上勝利が「1.28倍」でフルトン勝利が「3.75倍」の賭け率。スーパーミドル級の4団体統一王者のサウル“カネロ”アルバレスや29日にエロール・スペンスとウェルター級の4団体統一戦のビッグマッチを戦うテレンス・クロフォード(米国)ら名だたる海外の王者が井上有利を予想している。
「そういった予想の声を裏切りたくないし、期待通りの試合をしたい」
井上は、そういう声を力に変えたいという。
当日のリングサイドには、WBAスーパー&IBFの世界同級王者のマーロン・タパレス(フィリピン)が視察に訪れる予定。大方の予想を裏切り、ムロジョン・アフマダリエス(ウズベキスタン)を破って新王者となったもう一人の2団体王者である。
「その試合は見ていない」井上は「まずは25日の試合だ」とも言うが、このフルトン戦の位置づけを「キャリア最高の試合になるか?」と聞くと、笑ってこう答えた。
「今現時点ではそうなる。この先にどんな戦いが待っているかわからない。だから現時点では」
今回の世界戦に向けて作られたチーム井上のTシャツはブルーだった。挑戦者の青コーナーを示すカラー。その胸にはこう書かれていた。
「SUPER STAGE TOP LEVEL」
スーパーバンタム級から始まる新たなモンスターの物語に賭ける決意と4団体統一王者のプライドが示されていた。
(文責・本郷陽一/ROSNPO、スポーツタイムズ通信社)