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8ラウンドにフルトンからダウンを奪った井上尚弥の左フックは空中に飛び上がったロケットパンチだった(写真・山口裕朗)
8ラウンドにフルトンからダウンを奪った井上尚弥の左フックは空中に飛び上がったロケットパンチだった(写真・山口裕朗)

新チャンプ井上尚弥が明かす劇的TKO秘話…「フルトンには最後まで“シカト”された」

 プロボクシングのWBC&WBO世界スーパーバンタム級新王者となった井上尚弥(30、大橋)が26日、横浜市内で一夜明け会見を行い、“最強”スティーブン・フルトン(29、米国)を8ラウンドTKOで下した衝撃の試合を振り返った。足を踏んできたフルトンのなりふり構わぬ作戦に、井上が仕掛けた心理戦…。そして、井上が緊迫の試合で感じ取ったボクサーとしての成長。ボクシングの醍醐味を示す名勝負だった。

 足を踏みに来たフルトン

 

 “頭脳戦”はゴングが鳴った直後から始まっていた。
「1ラウンドのゴングが鳴ってパンチを出す前から駆け引きは始まっていた。パンチを出さずに圧をかけたそこからが頭脳戦。まずはジャブから相手を崩したかった」
 左のガードを下げて、その腕をL字に曲げる「L字ガード」でプレッシャーをかけた。フルトンは距離感がつかみにくくなる。
 だが、フルトンも、ひとつの仕掛けをしてきた。左足で井上の左足を踏みに来たのだ。井上は、つまずいたようになってバランスを崩した。
「つま先が当たったら、そこからぐっと踏んできた。集中力が途切れるんですよ。異様に左足が斜めに入り込んできた。事前に映像で見たときは気にならなかった。ああいうのは、練習をしていないとできない。わざと。戦術だったんでしょうね」
 相手がサウスポーだと、井上が前に出した左足と、相手の右足が交錯するケースは珍しくない。だが、右構え同士で足を踏まれることはまずない。フルトンはわざと左足を斜めに踏み出してきた。井上は、その狙いを「前に入れさせたくなかったんでしょう」と読んだ。
 この試合の焦点は距離だった。
 身長で4センチ、リーチで8センチも上回るフルトンは、ロングレンジ、あるいは、超至近距離の戦いを求め、井上は、足を使われ遠い距離で逃げるボクシングをされることと、ホールディングの反則スレスレのクリンチで攻撃機会をつぶされることを嫌った。体格差を生かしたいフルトンは、井上が懐深くに入ってくるステップインを防ぐ手段として足を踏みに来たのである。
 だが、1ラウンドのジャブの攻防では井上が優位に立った。
 ゴング直前のリング上で、弟でWBA世界バンタム級王者の拓真が兄に最終確認のアドバイスを送っている。「距離に気をつけて。遠いから」。井上は弟のメッセージを受け取り、スーパーバンタム級に上げたことで減量苦がなくなりコンディションが整ったことで増したスピードに乗ったステップインを生かしたジャブの差し合いで圧倒した。
「あれを見たとき勝ったと思った」とは拓真の回想だ。
 フルトンは、パンチ力に怯え、バックステップを多く使い距離を取るようになった。
 2ラウンドに井上は、フルトンのフックを華麗に外して空振りさせたあとに、顎のあたりをグローブで、ちょんちょんと触るジェスチャーを見せ「当ててみな」と挑発している。
「心理戦ですよ。フルトンを前に出させたい。冷静にさせたくなかった。彼の技術とテクニックは評価しましたから。ああいう仕草で少しでも崩せたらいいかな、と」

 

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