12回熱戦ドローの首位攻防戦に見えた岡田阪神の収穫と新井カープの仕掛け…裏をかいた「ピッチドアウト」に秘められた心理戦
3回の攻防だ。
1点を追う広島は、この回、先頭の矢野が、打球を叩きつけ、二塁への内野安打で出塁すると、続く森下の初球に盗塁を仕掛けて成功させたのだ。バントが確実視された場面。一塁の大山と、三塁の佐藤が猛チャージをかけたが、矢野は、大山が焦って早めにベースを離れた瞬間にもうスタートを切っていた。
クィックが1.0秒台の青柳は、「盗塁を許さない投手」として有名だが、完全に裏をかかれて今季初盗塁を許した。無死二塁となって森下がバントに失敗。三塁へ走者を進めることはできなかったが、小園がライト前に同点タイムリーを放ち、ゲームを振り出しに戻した。
そして、さらにその裏のピンチも“頭を使った野球”で防いで見せる。
先発の森下は先頭の近本に中前打を許した。続く中野の打席。阪神ベンチがカウント1-1からエンドランのサインで動いてきた。だが、坂倉が立ち上がって、大きくピッチドアウト。中野はバットを振ることもできず、読まれた近本は、途中で立ち止まり、一、二塁間のランダウンプレーでアウトになった。通常、ピッチドアウトはベンチからの指示によって行われる。サインを見破ったのか。それとも前回に岡田監督が阪神で指揮を執った際にクリーンナップを任されていて、ある意味、“岡田野球”を最も知る新井監督が、何かを感じたのか。完全に裏をかいた。
阪神は走者がなくなってから中野が一、二塁間を破るヒット、二死から大山にもレフト線を破る二塁打が出たが、得点につなげることができなかった。満を持してのピッチドアウトが、阪神打線のリズムを狂わせたのである。
岡田監督からピッチドアウトについての持論を聞いたことがある。
「ひとつボールを相手に与えるわけだから、ピッチドアウトは勇気のいるサインよ。失敗したら、たちまち不利になる。だが、成功したときには相手に大きなダメージを与えることができる。サイン読まれているのか?とベンチも混乱するしな。だから本当のここ一番でだけで使うんよ」
裏を返せば、新井監督が仕掛けたピッチドアウトは、今後、阪神ベンチやバッテリーに「広島はこういうこともする」という“トラウマ”として残ることにもなる。
首位攻防戦に秘められた心理戦だ。
この先に待つ本当の優勝争いに向けて、阪神と広島が、それぞれ収穫という名の“布石”を打って、7月の首位攻防戦の第2幕の決着はつかなかった。
阪神が50勝37敗4分けで勝率.575、広島が52勝39敗1分けで勝率.571。ゲーム差無しで迎える今日30日の首位攻防戦の第3戦に阪神は、今季4勝4敗、防御率2.45の左腕、伊藤将、対する広島は今季4勝7敗、防御率2.94の大瀬良を立てる。