なぜ阪神はハマスタ連敗を「13」で止めることができたのか…“魔物”振り払った岡田監督の仕掛けと誘発された横浜DeNAの痛恨ミス
木浪が決めた。伊勢のフォークが抜けた失投を見逃さない。
ジャストミートした打球は、前進守備を敷いていた蝦名の頭上を遥かに越えていく。勝ち越しのタイムリー二塁打。ヒーローインタビューに指名された木浪は、この場面を「もう行くだけだと思っていた。思いきり行った結果がああいう結果になって良かった」と語った。
送球が乱れる間に木浪が三塁へ進み、さらに代打・糸原がセンター前へタイムリーで続き、この回、4点目。
だが、ハマスタの“魔物”は、最後まで阪神を苦しめる。
8回を任せた加治屋が二死を取ってから、途中出場の関根にヒットを打たれ、宮崎、牧に連続四球を与え、二死満塁のピンチを背負った。続く佐野に一発が出れば逆転である。岡田監督は、迷わず左腕の島本をマウンドへ送る。「ランナーがおったら島本よ」。買ったのは冷静沈着な島本の度胸だ。
初球のフォークは、もの凄い落差だった。佐野が空振りすると、続く2球目こそが、島本の真骨頂だった。外角にズバっとストレート。ベルト付近の高さに投げる大胆な配球で2ストライクに追い込むと、最後は、落ちるボールで三振に仕留めた。岩貞ではなく島本を抜擢した岡田監督の人選の妙と、その期待に応えた左腕の強靭なメンタルの勝利である。
実は、流れを呼び込み横浜DeNAを浮足立たせるような布石は序盤戦から打ってあった。
「あんまり点数が入らんからだいぶ動いたよ」
3回には二死一塁から走者の近本が偽装盗塁。近本は、すぐさま戻り、二塁ベースカバーは誰もいなかったが、山本が二塁へスロー。ボールがセンター前へ抜けて近本が二塁へ進んだ。
4回には、先頭の大山がレフト前ヒットで出塁すると、続く佐藤の打席で、カウント1-2から大山を走らせた。佐藤がボール球を振って三振に倒れたが、大山は盗塁に成功した。
「あれはスチールよ。佐藤が勝手に振っただけ」
指揮官がバッテリーの意表を突いて作ったチャンス。二死から坂本の先制タイムリーにつなげた。
しかし、無失点の好投を続けていた村上が、6回二死一塁から4番の牧に抜けたフォークをレフトスタンドの最上部まで運ばれる逆転の2ランを浴びた。
岡田監督は、「打たれすぎよ、あの宮崎と牧の2人には。ちょっと考えなあかん」としたものの「あのままでは終わらん」との予感がしていたという。
昨年、岡田監督は、レギュラーシーズンで阪神より上の2位となり、クライマックスシリーズを争った横浜DeNAの野球を見て「勝負どころで甘さが出るチーム」と評していた。
球界を代表する牧、宮崎、佐野といった好打者を揃え、力の差を誇示できるゲームでは圧倒するが、裏腹に勝負どころでは、ミスが出る。この日のゲームは、まさにプレッシャーがかかった時にこそ試される紙一重の“野球の質の違い”が明暗を分けた。
蝦名の落球も、森下の三塁ゴロを前に出ずに待って捕って内野安打にした宮崎の守備も、山本の二塁スローを体を張って止めることのできなかった牧のフォローもすべてが、紙一重の球際のプレー。
三浦監督は、「ミスもちょっとここんとこ増えてきている。点に絡まないところでのミスもあった。そのあたりをしっかりとしていかねばならない」と反省を口にしていたが、岡田監督が、それらのミスを誘発させるための見えないプレッシャーをかけていたのである。
阪神の貯金は「16」。今日5日の“第二幕”に阪神は、立ち直りを見せている“ハマキラー”のエース青柳を先発に立てる。勝ち越したシーズンがあっても、虎の代名詞のように言われてきた“夏の死のロード”という言葉を今年こそ本当の死語に追いやりたい。
(文責・RONSPO編集部)